一緒に棲む前段階な感じ



愛について






遠くの喧騒を掻き消す、ざらざらと木の葉の擦れる音が聞こえる。息を一つ吐けばまだ白くはっきりと見える気がした。残念ながら自分の生きている証はもうそんなに温かくなかった。街灯が点くか、点かないか。そんな時間に隠れる様に、待ち合わせをする。

(遠くから走って来る彼女。着ている服は消えそうな位白系統。纏うレースは、虫が食んだ葉みたいだ)

(遠くで待っている彼。着ている服はいっそ目が眩む程黒系統。細長く伸びた、手足まるで節足動物ね)

声の届く、手の届く、つまりはお互いの存在が届く距離まで近付く癖に決まりごとがあるかの様にそこでぴたりと止まる、大人の小さな逡巡。外気に抵抗する為に体温をもって赤い相手の指先。どちらともなく両手で握れば色は広がる。手の平に。もう二つの手に。

(言葉にすら出来ない人が、言葉より大切なものをどうやって証明する?)

(確かなものが何一つないなら、怯えることだって何もないんじゃない?)

解っていることをそのまま外に出せる程まで器用に卑怯に生きられたら良いのに。長過ぎるマフラーも肩の高さが離れていて二人で巻けやしないからせめて温めあった皮膚を繋ぎましょう。何も出来ない代わりに、せめて言葉を繋ぎましょう。見えないものについてはどうも巧く喋れないけれど。ゆらゆらと訪れる濃紺の空、だんだんと現れる黄色の光。黒に近い、白に近い。

(今日は何処に連れて行ってくれるのだろうね。あなたが連れてくる都合の良い云い訳に毎度救われているんだ)

(美味しいスープが飲めるお店を見つけたので。あなたが飲み下した過去よりどうか夢中になって貰えます様に)

明日もまたきっと寒いから今日は温かいものをうんと摂っておこう、隣で歩く人といつでも逢える保証もないし。世の中実に儘ならない。ちゃんと云えることなんて何もない。あなたといれば見つけられますか。好きでいられる為に肩書きは必要ですか。口に出して良いものですか、それは。

「寒いか」
「平気ですよ」
「なら良い」
「秋山さん」
「なんだ」
「好きです」
「ああ、俺もだよ」
「!」
「……寿司も好きだがな」
「何の話ですか」
「洋食の話じゃないのか?直さん」
「……秋山さんなんて好きじゃない」
「俺をからかおうとするお前が悪い」
「うぅ。笑わないで下さい」
「くくく」

不器用で要領の悪い、大人の小さな逡巡。空回りしては煙に巻いて、誤魔化すことだけ成長して。それでもいつか伝わる日が来ると、不確かさえ信じることの出来るのは多分あなたのお蔭。

愛についてもう少し上手に話せる時が来たら、今度はあなたと一緒に棲む家で、今日のスープと同じものを作って飲みましょう、是非。


(100420)

BGM:愛について













厚かましくもリクエストさせていただいた、心停止後と蘇生の引き金になった素敵小説です
秋→←直という抽象的にも程があるリクエストをこんなにも昇華してくださるヒホさんには毎回度肝を抜かれております
こんなにあったかい両片想いを私は見たことないよ!もどかしいくせに既にお互いに寄り添っているようだという……はっ!これが噂のプラトニック!?
これはもう原曲を聞くしかないのではないでしょうか、さあ皆ツタヤにGo!シカヲさんコーナーに走るんだ!
本当にヒホさん大尊敬しております、語彙量も発想力も雲の上どころか宇宙空間にありそうです。少しでもそちらに近づきたいのですがむしろ転げ落ちている気がします
リクエスト受けてくださって本当にありがとうございました!大好きです!

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