子どもの頃、私には私だけの神様がいました。人の内側を透かすような丸い目で私をじっと凝視する小さな神様でした。子どもの想像力で作った都合のいい神様は、私と同じ背丈で、お父さんがいない夜更けや明け方に私の隣を埋めるようにしてそこにいたのです。それは神様ですので私が心ない行為をしそうになるといつも私の目の前に現れては咎めるような目でこちらを見るのです。地面に落ちた誰かの100円玉を素通りする度に注がれる錐のような視線は今も消えません。すぐそこにあるのです。


「お前は覚悟しなければならない」あなたが言うのです。「お前はお前の無垢を守るために、いつか俺を犠牲にしなければならない」
否定をしようとする私の唇は何か音を放つことすらできず凍えます。果たしてそれを彼得意の嘘だとできるのかとなにものかが私の耳許で囁いているのです。私が誰かを疑うことなく健やかにここまで歩めたのは一体誰の力によるものなのだと、静かに告げられました。耳許にあるなにかは、昔作った都合のいい神様の形をしていました。人の心の内を見透かすような丸い目を、私に向けておりました。
私があなたを消費する日。おぞましい響きに耳を塞ぎ、そんな日が来るわけがないと自分に言い聞かせる私は今だけ、誰よりも唾棄すべき大嘘つきです。



寂寥の荒野にあなたが一人きりで歩く夢を見ています。私を守るためにあなたにまつわる柔らかなもの全てを捨てて進むあなたは声のひとつも上げません。私は遥か遠くでそれを見つめたまま立ち尽くしています。
「秋山さん」
頬の冷たさで目を覚まします。深夜を走る車のライトが窓から差して眠るあなたの顔を一瞬だけ照らしていきました。
本当は、あなたの言葉には間違いがあります。犠牲になるのはあなたである必要はない。私であればいい。だけど私は、あなたにそれができないことを知ってしまっているのです。私と同じように。


今も耳元であなたを苛み続けるあなたの神様はどんな形をしていますか。その神様は、いつ生まれたんでしょう。あなたのお母さんが飛び降りた日、群衆を掻き分けた先にあるものを見た瞬間、あなたの神様はあなたに何を言ったのですか。
あなたの時を止めて未だ続く懺悔を、どのような顔をして聞いているのでしょう。


昔作った都合のいい私達の神様は、私達を救いません。
優しい彼を地獄へと追いたてるのならば、私に彼と二人で傷付く権利をください。
神様。






リンさんリクエストで「私とワルツを」で書かせていただきました!鬼束さん曲は秋直の宝庫ですよね……!
だが好きすぎるあまり五里霧中になってしまった感ですね。公式で秋直の幸せが早く確定しませんかね。Rなんかに巻き込まれてる場合じゃねぇ。
大変遅くなりましたが、リクエストありがとうございました!
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