言えないのがもどかしいな。私はそんなに口が上手くない。いつもみたいに勢いに任せて叫んじゃえばいいんだけど、大事なことなので折角だから的確さを得た自信がない限りは言わないことにした。何せこれは私の何倍も口の上手いあの男についての話なので。
軽薄を絵に描いたような奴だからどうせ何言ったって例によってはぐらかされて終わりそうな気がする。幸せに生きてきた私の綺麗事は辛酸舐め続けたあいつにとって不愉快かもしれない。何から言えばいいのやら。真っ先に浮かんだことは一つだけなんだけど。
私はあいつのことが大嫌いでした。


聖職にあるまじき節操のなさと口の悪さは私の中にあった聖堂騎士のイメージを粉砕して余りある威力だった。箱入りって揶揄されたっけ。もちろん当の本人に。気にしていたことを突かれた点も心証を悪くする原因の一つだったりして。フェミニスト気取りのくせに私にはあんまり容赦しないなぁ、手は出してこないとはいえ口喧嘩ならいくらでもやったっけ。斜に構えたあいつと真っ正面からしかものを見ない私、どっちにしても厄介なんだけど、お互い譲る気もなかった。エイト達は迷惑だっただろうな。それに関しては本当にごめん。でも強がりしか言わないあいつも悪いのよ。


「ゼシカ」
「何?」
「手ぇ出せ、さっきの戦闘で斬られただろ」
「ちょっとかすっただけなんだけど」
「俺のハニーに傷が残るなんて俺のプライドが許さないの」


全く虚勢だらけなんだから。だめなひと。片意地張って厭世ぶるくせに誰より優しいんだから。誰も気付かないような私の小さな怪我だって見逃さないもの。冗談言わなきゃ私の手一つ握れない。厚い革手袋、本当は邪魔なのよ。言わない私も素直じゃない。
あいつなりに器用に生きた結果なんだろう。容姿にも才能にも恵まれたけど、余計に嫌なものも見なきゃいけなくなったんだろうと思う。哀れみは感じないけど。所詮大嫌いだったから。警戒心たっぷりの笑顔も口上も邪魔で鬱陶しくて苛立ちしか感じない。それよりも時々むきになったときに見せる不機嫌な顔の方が気に入ってたりして。私より3つも年上なのに子どもみたいなんだもの。


「ほら、治療終わり」
「ありがと」
「遠慮なんかしてないでちゃんと言えよ」
「わざわざ言いづらいし。私も回復呪文覚えたかったな」
「俺がいるからお前は元気にメラゾーマ飛ばしてればいいんだよ」
「馬鹿にしてるでしょ」
「べっつにィ、いや痛ぇって!地味に蹴ってくるのはやめろ!」
「お望み通り最大出力で焼いてやるわよ」
「マジで勘弁」


慌てた表情も嫌いじゃない。酒場で女引っ掛けてるときは絶対に見られない顔だから、たまに見られるとなんとなく優越感。あんた達知らないでしょ、こいつ本当はこんなに情けない顔するんだから!って叫んでみたい。格好つけた流し目よりよっぽどいいと思うんだけど、何でみんなあんな澄ました男が好きなのかしら。変なの。あいつもあんな顔しなきゃいいのに。


「馬鹿なんだから」
「馬鹿って言うな」
「まあ、良いんだけどね」
「良いのかよ」
「良いの、私だけでも分かってれば」
「あれ、俺達何の話してたっけ」


優しくなっちゃえばいいのよ、弱くても情けなくても今さら幻滅なんかしない。私の怪我をすっかり治したときの、安心して緩んだ笑顔が実は一番好き。いつもの皮肉も毒舌もそれだけで許してしまえると思う。そう言えばいいのに私もいよいよ素直じゃない。大体上手く伝えられる気さえしない。どの言葉も私を届けるには小さい。だからしばらく考えようと思っている。あんたを求めるところはここにあると伝えるためには何を言えばいいか、手袋越しの手を握ったまま、私はほんの少し笑ってやる。











n番煎じっぽい
Title:エッベルツ
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