目を閉じたきり頭を抱えて逃げ出さずにいられるのは偏に目を閉じたくらいでは消えてしまわないあなたを瞼越しに見るからです。あなたはいつか私を唯一の希望だと言いましたが、あなただって私の光に違いないのでした。強く賢いあなたが私の手を引き続けたお陰で私は今日まで辛くも過ごしてこれたのです。名前通りな馬鹿正直の信条を掲げ続けることができたのです。
背中ばかり見てきたと思います。少し猫背なのにその場の人間全てを圧倒するそれに何度助けられたことか。その度に迷惑ばかりかける自分を疎ましく思われやしないかという不安がなかったとは言えないのですが。守られるばかり私はあなたの顔を見る機会が少ないのです。
だけどそれも今日で終わりにします、馬鹿正直の私があなたの力になれることもあると教えてもらったのですから。かつてあなたが見た絶望の半分も私は知りません。正確に理解することは一生できないのかもしれません。想像の末導かれたものはとても陰惨な地獄ですがそれですら生ぬるいかもしれない。私はあなたほど上手くはやれないと思います。思いますけど。
「秋山さん」
「どうした」
「私、絶対に皆を救いたいです」
「唐突だな」
「いっぱい秋山に迷惑をかけると思います」
「今更」
「それでも諦めたくないって言ったら怒りますか」
「別にいいよ」
こちらを振り返って苦笑したあなたへ小走りで距離を詰めて隣に並びます。背中の見えない景色は代わりにあなたと同じものを見せてくれます。先はひどい嵐があるのでしょう。私は飽きもせず騙され続けあなたは代わりに騙し続けるのでしょう。最早立ち止まれなどしないのだ。もうその背中は見えませんがそれだけは分かっていました。この掻く手は何物にも届きませんか。救いませんか。我ながら頼りないこの手でそれでも空を掴むのを、私は未だ止めずにいます。







BGM:sailing day
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