(4部)

たかが数字に一喜一憂するなんて非生産的行為をする気はなかった。とか言えたら良いんだけどね。悲しいかな容赦ない5段階評価にいちいち打ちのめされつつ這っていくのが僕ら学生の基本姿勢なんだから早々に達観するなり努力するなり路線を定めるべきなんだけど。ともかく鞄に教科書を詰めながら、ふと後ろの席の仗助くんの目の前でひらひら手を振ってみた。僕と同様例外なく打ちのめされた様子。髪型が決まらない朝以上の鬱が全身から溢れている。
「念のため聞くけどどうだった?」
「ほらよ」
「うわぁ」
「一応試験はそれなりに点数取ったんだけどよー、これは落ち込む」
「素行かな」
「俺の授業態度超真面目じゃねーか!」
うんそうだね仗助くん君こう見えて予習復習も欠かさず無断欠席もしない思いがけず品行方正な奴だもんね。僕が思うにその髪型さえ諦めればきっと成績表による一憂から距離を置いた生活を送れると思うよという感想は抱いたけど勿論それは口に出さずそうだねぇと無難な返答のみ返しとく。そんな自ら死亡フラグを誘発させようとするチャレンジャーは露伴先生のあとには未だ現れてないので。出来ればこれからも現れないことを切に祈ってる。
「お前どうだったの康一」
「地味に良くない」
「由花子にバレたらまずいんじゃねーか」
「そんな筈は無いよ多分まさかうん」
「悪いトラウマ抉っちまって」
「仗助くんのお母さんは何か言ってこないの」
「あんまりとやかくは言われねぇけどさー」
「何かあった?」
「いや、」
言葉を濁した仗助くんはふいと窓の方を向いた。イギリス人とのハーフだけあってか顔立ちが整った彼なのでクラスの女子の塊が何だかこちらを見て黄色い声で何か話していた。羨ましいね全く。と思ったところで脳裏に例の黒髪が一瞬去来したあたり僕は完全に躾られてる気がした。すいません嘘です邪念でした。もう下校時間だから窓の下にはわらわらと校舎から出てくる制服が群れなしていた。
「億泰くんのクラスはもう終わったかな」
「見てくるか?」
「いや駄目だ、多分僕ら以上に叩きのめされてる筈だから」
「そういやあいつの期末の結果は酷かった」
「不毛の大地とまで表現されちゃったもんね」
「アイス奢ってやるか」
「久しぶりにトニオさんの店にもいこうか」
エアコンが力なく唸っていた。いつの間にか騒いでいた女子もいなくなって教室には僕らの他にはもう数人しか残っていなかった。
「この前承太郎さんから連絡あってよー」
何となく言い辛そうな口調のお陰で、さっきの続きなんだと気づけた。
「大学卒業したら財団に就職しねーかって誘われた」
「へぇ……」
「まあ俺将来とか何も決めてねーから考えさせて下さいって言ったんだけどよ」
「うん」
「そもそも大学行くかさえも考えてなかったし」
殆ど独り言みたいだったから僕は相槌だけ打って他には何も言わなかった。そうかそういえば僕らは決めなきゃいけないことばかりだった。耳に残ってた黄色い声が何故かもう一回鳴った気がした。エアコンが唸る。
「スタンドの研究なんかも面白そうだけどよ、俺らまだ若いから人生における重大な決断するの難しーっての」
何となく重くなった雰囲気を払うように仗助くんは笑った。つられて僕まで笑った。笑いながら、この笑顔がいつか見れなくなる日が来るんだと思って少し寂しくなった。
「いい加減億泰のとこ行くか」
軽い調子で立ち上がった仗助くんに、僕は慌てて鞄を抱えてあとを追う。廊下に出るとまだ残ってた女子が嬉しそうに仗助くんに挨拶をして、それに仗助くんが浅く会釈する。いつもの光景だったから僕はもうそれに対して仗助くんこの髪型であっても馬鹿みたいにもてるから不思議だよなぁ以外の感想を抱かないけど。もしもこれが見れなくなったらどうなるだろうと考えてみてすぐに嫌になった。僕って奴は見た目だけでなく中身まで幼いのかそんな馬鹿な。
「あとさっきの話だけどよ」
歩きながらまた唐突に話を戻された。嫌な現実に向き合わされるようで避けたいような気もしたけど、どうせ逃げられやしない。もうこれ以上、由花子さんも仗助くんも億泰くんも露伴先生も誰一人欠けないまま生きていくなんて夢みたいな話だし、大体欠けるのは僕かもしれなかった。
「財団の話保留にしたってやつ?」
「それな。まだこっちの世界一本に決められないってのもあるけどよ」
振り返った仗助くんはいよいよ照れ臭そうに笑っている。おいおい。
「やっぱ俺杜王が好きだからな」
なんだよそれ!思わず吹き出した。全く僕の友人は何でこんなに気の良い奴らばかりかな。それが誇らしいんだ。ああそれだったらいいんだよと思う。いなくなったって欠けやしないんならさ。













4部好きすぎて生きるのが辛い
Title:舌
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