まだ死にたくないと思うくせに、恐らく死ぬときは未練など残さないだろうと妙に強く信じているのだと、できたら君に伝えたいと思う。心臓が止まる瞬間までどうせ俺は君の傍から離れやしないからまだまだきっと時間は残っているだろう。それが何秒か何時間か何年かはさておき。まだまだきっと一緒にいられる。それでも今伝えておきたいと思ってやまないのだ。
今心臓の傍で君が笑う声を聞く。健やかで柔らかい声に俺まで笑う。くしゃりと撫でた髪はいつも通り艶やかで指をあっという間にすり抜けていった。腕の中の自分のものでない体温がこんなに愛しく感じることができるようになったのはきっと君のせいだ。そうしてその君の中心には俺と同じように脈を続ける心臓があって。少しばかりずれた速さで二つ鼓動を鳴らしていく。
まだ、きっと止まらない。
君が死ぬ瞬間を空想する。次の瞬間死にたくなる。君の心電図がゆっくり波打つのをやめてやがて平坦な線しか引かなくなるんだ。俺は君の、既に冷たくなっている手を握りしめたままそれを眺めることしかできないんだろう。どうして、ついさっきまで生きていたのにどうしてこんなに冷たいんだろうかと場違いなことをぼんやり考えて、俺の手が触れていた部分だけが少しだけ体温が移っていてだけどそれさえすぐに冷めて。泣くのも忘れて白いシーツの中の君の寝顔を見ているだろう。
勿論君は死んでいない。今も俺の腕の中で相も変わらず笑っているのだ。考え事ですか、と眉間に触れた指は君自身の体温で温かいのだ。勝手に安堵した俺は泣きそうになるのを隠して笑ってやる。寂しいことも悲しいことも君に与える気はない。
君の傍にいるために生まれたんだと思えば馬鹿みたいに生きていることが幸せに思えるんだ。理由なんてもうそれだけでいいと思う。
もし俺が秋山深一でなく、青くなった死体になってしまったら君はどうするんだろう。俺みたいに呆然と冷たくなる手を握りしめるんだろうか。寂しいことはあげたくないから、せめて泣かないでいてほしい。
聞こえてるだろう、心臓の音。
ぎゅうと一度強く抱き締めたらくるしいですと漏らされた。軽く謝ったら唇を尖らせているくせにすぐにふにゃりと笑って抱きつき返してくる。
死にたくないけど、多分死ぬときには君との人生を満喫しきっているだろう。
言えなかった言葉なんて残さないでいよう、胸にあるありったけの感謝を君に手渡してから死ぬんだ。いつ別れてしまうのかは分からないけどそれまでに全部全部君がくれた物を返したいんだ。だから今言いたい。
まだ心臓が止まらないことを、心から感謝する。











BGM:心拍数♯0822
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