どうしてかこう、世の中はままならぬことだらけなので。生まれてしまったこと自体がその最たるものだから仕方ないといえば仕方ないことだ等と中二臭い妄言で濁していくのにも飽きるのでどうにかなりませんか。例えば彼女、馬鹿正直馬鹿正直とことあるごとに揶揄される例の彼女は誰も打算をもたず裏切りもしない夢の世界を求めちゃいるけどそんな理想は賭けてもいいけど永遠に叶いやしない。ついでに俺、そんな彼女にしてやれることが何にもない。
「目ぇ閉じてよ」
丸く丸く見開かれた目は本人にそんな気はないんだとしても咎めるような色を以てしてこっちを刺すから嫌いだ。大嫌いだ。退路を断つべく手をついた壁がばかに冷たいのはどうしたことだろうと思いながら視線を相変わらずその真ん丸い目に注ぐ、嫌いな癖に。何せ俺はかの天才程ではないにしても嘘吐きであった。ねえ何か言ってよ。この距離について。呼気も触れあう隙間。
「久慈くん」
待ってた。その口が俺の名前を呼ぶ日を心待ちにしていた。それでもその響きが何か夢に見ていたものと違うのは、単に、未だ彼女の目に俺がただの子供に見えているだけなのかと思う。
一言呼んだきり口を噤んだ彼女、何を言いかけてやめたのか知りたいような知りたくないような気がして追うことができなかった。目の前にいるのにね。逃げられやしないのにね。
「目を」
閉じてよ。俺ではない誰かを映すのはもうやめよう。叶いもしない不毛な理想を描くのももう終わりにしようよ。それら全て注いでやると丸い目が確かに恐がった。別に、あの天才じゃあるまいし少しだって傷付けたくないと思っている訳でもなかった。緩く波打った茶色の髪が揺れた。頭を振る様子はやっぱりどう見たって俺よりも幼い仕草だった。
「大丈夫だよ、そんなに恐くもない」
見上げた目はもう嫌いではない。やがて予想通り伏せられた睫毛が濡れている気がした。降伏。
「見ない方が楽でしょう?」
「久慈くん、」
「お互い忘れようよ、色々とさ」
さっきまで触れていた壁と、柔らかい頬の温度差がなんだか残酷に思えた。唇も同じ温さなんだろうかと確かめようと思う。
それにしても本当に、ままならぬことだらけだった。彼女が待つ人が俺ではないことだって。それはどっちの願いだったんだろうと考えてもいる。




「ねえ教えてよ」
「まだ子供に見えんの?」










本当にもう……フィーリングでお願いします
Title:クロエ
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