夏は日が落ちるのが遅くて。
「だからいつもよりも長く遊べるのが嬉しかったんですよ」
笑う彼女の肩の白さが太陽を反射したように見えた。細い腕がするりと伸びてカーテンを引いたのを眺めている。俺はといえばソファーの上で溶けかけたアイスみたいに崩れかけている。
「夏バテなんかと無縁そうだなぁ、お前」
「そうでもないですよ?」
「めちゃくちゃ元気だろうが」
「秋山さんがばてすぎなんですよ」
どうせエアコン付けっぱなしで寝たんでしょうという小言の言い方がまるで母親のものでおかしくなった。ごうごう唸るエアコンを見上げた。
「秋山さんは夏休みどんな過ごし方してたんですか」
「溜めるの嫌だから早めに宿題終わらせてたな。絵日記だけ残しといて、あとは7月には終わってた」
「秋山さんらしいです」
「小学生のうちは外で遊び回ってたけどなぁ……」
もう1℃下げていいか聞くと怖い顔をしてくる。諦めて寝返りを打った。温くなったソファーの表面がべりりと頬から剥がれる感触が気持ち悪い。鬱陶しいのかまとめた髪が揺れて見えた首筋をぼんやり眺める。真っ白だ。
「お前、課題とかないの」
「ないですよー」
「そう」
「やりたいこと何でもできます」
いつの間にか床に座り込んでソファーに凭れた彼女の顔がすぐそばにある。黒目がまっすぐこちらを見てくるから、その中に映った溶けかけた男までよく見えた。路上で死にかけた虫みたいだと我ながら思っている。
「何するの」
「秋山さんと遊ぶんです」
「楽しさは期待できないぞ」
「いいんです」
いいのかよ。溜め息をつくと余計に暑くなった気がした。目の前の白い肌が何だか涼しそうに見えて掌でその頬に触れてみる。案の定エアコンの冷気に当てられてかひやりとしていた。
「冷て」
「秋山さんの手熱いです」
「掌ってそう温度下がらないだろ」
「そうなんですか」
「似合わないな、冷たいの」
「秋山さんも」
「そうかなぁ」
冷たくて柔らかい感触が嫌になるくらい心地いい。また皮膚にぬるいソファーの革が張りついて不快な感触を残していた。ごうごう唸るエアコンはそろそろうるさい。気温は下げる癖に不快指数はなかなか下げない役立たずめ。白いカーテンの向こうには殺意こもった直射日光がじりじりアスファルトを焼いてるだろう。
「なあ」
「何ですか」
「エアコン消そうか」
「どうしてまた」
「お前冷たくなってる」
「秋山さんが溶けちゃいますから消せません」
頭を動かすと前髪が視界を遮ったのを細い指がそっと元に戻した。やはりその指も冷たい。皮膚の薄い喉を目線でなぞる。
どこに連れていけば喜ぶだろう。唐突に考えた。後頭部に回した手を引き寄せてやる。抵抗はない。体温が混ざればいいなと思った。
蝉が鳴いている。









潮さん宅の夏企画に提出させていただきました。
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