(学パロ)


「ヨコヤ」
「何ですか秋山くん」
「死んでこい」
「嫌です」
「黙りなさい二人」
ぞんざいな手つきで投げつけられた濡れタオルは見事彼の額に命中。ついでに何故か私にもタオルを投げつけられた。顔面全体をカバーされた所から察するに、「窒息死しろ」という無言の命令だったに違いない。揃いも揃って同級生が冷たい。
「今アイスノンは冷やしてますから暫くはそれで我慢なさい。食事はいつ摂りましたか」
「昨日」
「馬鹿ですね」
「馬鹿だよねー」
桃缶を開けながらキノコ頭がげらげら笑った。黄桃だった。
「ねえねえあっきー今季節何か知ってる?夏なんだってよ?夏風邪ってさーナントカが引くって言うよねー」
返す言葉も無いのか返す意欲も無いのか返す気力も無いのか、まあ知るよしもないが当の本人は未だに力なく焦点の合わない目のまま赤い顔である。今夜の食事は美味いに違いない。
「何でお前らここにいるんだ」
「今さらですか」
「ははは、珍しく君が欠席なんてするからお見舞いに来てあげたんじゃないですか」
「何をだ」
「とどめの一撃的なものを」
「死滅しろ」
「うるさいです二人」
体温計が飛んできた。ブーメランのごとき回転がかかった小型機械はちょっとした凶器である。
「体温を報告しなさい。場合によっては解熱剤も使いますから」
「いや、帰れよ」
「いやいやいや、あっきーがこんな弱ってるなんてレアな状況ほっとける訳ないじゃん!寝顔でも激写したら高く売れるし」
「帰れ」
聞く耳も持たないキノコ頭はフォークに刺した桃を無造作に病人に押し付けながら写メの用意をしている。
ふと肩を叩かれる。
「白髪、これを」
先程までりんごをおろしていた葛城がメモを手渡してくる。几帳面な筆跡で書かれていることには、鎮痛剤、果物、葱、スポーツドリンク、ビタミンC的な物。
「何ですかこれは」
「おつかいです」
「貴女が行けば良いでしょう」
「この猛暑の中外に出て焼けたくないんですよ」
「私だって嫌です」
「日傘持ってるでしょう」
なんという。
嘆息して傍らを見れば、大人しく桃をかじりつつもキノコ頭の携帯を鯖折りにする秋山の姿がある。
「秋山くん」
「何だ」
「神崎さんはどうしました」
「は?」
「呼べばいいじゃないですか、こんな時くらい」
「……」
我らが部長が、かの可憐な後輩に現を抜かしているというのは当の彼女を除いて周知の事実であった。まあ部員は多かれ少なかれ彼女に対して好意を抱いているのだが。
「かっこつけてんでしょー」
「今さら気取ったところで君の好感度など上がるとは思えませんけどね」
「天才が聞いて呆れます」
「お前ら、」
遂に堪忍袋の緒が切れたらしい、鬼のような険しい顔をした秋山は布団からむくりと起き上がり手始めにか私の胸ぐらを掴み、
「安静にしなさい」
葛城が投げたアイスノンで額を強打しあっという間に昏倒した。手早く福永が布団を整える。
「葛城、あっきーが虫の息だ」
「それはいけませんね。白髪、ついでに秋山くんが蘇生しそうなものを用意してきなさい」
「何ですかその抽象的なお題は」
当然の反論は受理されず、葛城と福永は何故か呼吸を合わせたように私を玄関に押し出した。
「いいですか、必ず蘇生するものですよ」
「このままだと葛城が殺人者になるし!まあそれはそれで俺的には面白いけどー」
「………」
再び嘆息する。あきらめてドアを開け一歩踏み出せば忌々しい青空がじりじりと網膜を焼いた。色素の足りない片目が痛い。
どうせ、突然消えた先輩達に今頃おろおろとしているに違いないのだ。忌々しい。あの男の為に彼女を呼んでやるなど。しかし。
ドアを閉じると喧しい二人の声が遠くなった。耳に当てた携帯の向こう側の呼び出し音を聞きながら私は彼女の途方に暮れた声を待つ。









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