「ただいま」
「おかえんなさい」
「母さんは?」
「父さんと買い物行ってる。夕飯作ってる途中で材料足りなくなったって」
「そ」
「ちょっと待て」
「触んなよ兄貴」
「女の子がそんな汚い言葉使うもんじゃありません。てかお前帰り遅いだろ、もう8時だ」
「うっざ……」
「心底蔑みの目で見るのはやめろ」
「8時くらいで何言ってんの」
「母さんが心配してたんだよ、迷子になってるんじゃないかしらって」
「あんたと一緒にすんなって言っといて」
「父さんがもう言ってた」
「あっそ」
「中学生で夜遊びはよくないぞ」
「夜遊びじゃないし……」
「じゃあ何してたんだよ」
「うっざい」
「力強くアクセントを付けるのをやめろ」
「私兄貴が嫌い」
「平坦にそんなこと言われるのも辛い。どこが嫌いか言いなさいお兄ちゃん直すから」
「顔」
「顔だと!」
「去年にさ、私が一時期クラスでハブられてたときあったじゃん」
「ああ、お前が空気読まないでいじめられっこ庇って孤立してたときね」
「だってやり口汚いんだよあいつら」
「それが何」
「それ知った兄貴が裏から手回した次の日から孤立してたのが嘘みたいにみんな平謝りしてきてさ」
「そんなこともあったなぁ」
「嬉々として裏工作してる兄貴のどや顔がめちゃくちゃ不快だった」
「どや顔!?俺どや顔してたの!?」
「父さん激似の」
「えっやだ……俺あんな悪人面してたとか」
「今も時々やってる」
「嘘だろ……心が折れる……俺どっちかってと母さん系の小市民目指してんのに」
「馬鹿じゃないの」
「何だと」
「あんな馬鹿正直になったって損するだけじゃん。ていうか私もう着替えたいんだけど、手離してよ」
「いや待て最初の話題忘れてた。お前今まで外ほっつき歩いて何やってたのか言いなさい。言ったら離してやるから」
「…………」
「何?聞こえなかった」
「……迷子」
「は?」
「100円拾ったから!交番に届けようとしたの、そしたら交番が案外遠くて途中で迷った!それだけ!」
「……………」




ごめんなさいと本当に申し訳なさそうな顔に何回気にするなと言ったかは忘れた。大体たかが買い物に付き合うくらい大したことはない。一人で行くと聞かなかったが、この暗い中この馬鹿正直を放してしまえば確実にろくでもないことに巻き込まれるのだ。経験に基づいた判断である。
帰ったら美味しいミートソース作りますからね。あの子達これが大好きだから。力強く拳を握る横顔。こうして見ると、18の時から何も変わっていやしないなと思う。相変わらず馬鹿正直として愚直に彼女は自分の隣で歳を経ていった。同じ長さの時間を自分も重ねていった。途中で二人家族が増えた。丸っきり彼女に似れば良かったものの、どうにも自分の誉められたものでない要素をいくつか受け継いでしまった二人だが、しかし出来の悪い子程可愛いものだ。そういうと彼女は怒る。出来が悪くなんかないですよあの子達は世界で一番素敵なお利口さんですと真顔で言うのだから面白い。
しんいちさん。首を向けると彼女が笑っている。私達って罰当たりなくらい幸せですね。小さい手からぶら下げた白いビニール袋には今日の夕飯の材料がつまっている。スーパーまで10分もかからないんだから、たまには徒歩もいいでしょうと微笑んだ彼女が進む歩道には街灯の丸い光が落ちている。それを辿って俺と彼女は同じ家に帰るのだ。そうですね直さん。俺達は幸せだね。たまには昔みたいに手でも繋ごうか。荷物は二人で持ってるからお互い片手は空いているんだし。遠くに我が家の窓の光が見えた。帰りの遅いあの子はもう帰ってきただろうか。









Title:クロエ
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