君が泣く夢を見た。叱責することも抱き締めてやることも出来ないまま蹲る彼女の前に突っ立っているという内容だった。余りの寝覚めの悪さに偶然その日終電を逃し泊まっていた彼女が、ソファーから飛び起きた俺の顔色を見て慌てて駆け寄ってきたくらいだった。
「どうしたんですか」
「……いや」
「悪い夢でも見たんですか」
そうだ酷い夢を見た。君がいつまでも泣き止んでくれないんだ。お前の吐く嘘ごときで彼女の悲しみは癒せないよと誰かが耳元で笑う気がしたんだ。その余りの正論ぶりに俺は動けなくなる。
「お水、持ってきます」
「いらない」
「でも」
「いいから」
「……分かりました」
汗が冷えて寒くなった。思わず顔を覆うと背中に君の手を感じた。宥めるような手だった。泣く子をあやすような。紛れもなく夢の中で俺が君にしてやれなかったことだった。
「どうしてそう優しいかな」
「え?」
「何でもない」
ろくに生きる目的を持たない俺を生かし続けているのは勿論君だ。きっと死ぬまで君が俺の心臓に火を灯して体温をこの指先にまで伝えるのだろう。だが俺はどうだ君に何を与えられる。つくづく嘘以外に何も持っていない人間だった。正直者の君に捧ぐに叶うものは俺には与えられないものばかりだ。平穏とか。安息とか。幸せとか。
なあどうしたらいい何を差し出せば君の涙を拭う権利を得られるんだ。全部やるよ全部、何故なら俺にはもう君しかない。
どうやったら君のために生きていけるのかな。
「…………」
雨のような音がした。手を退けると真っ先に目に入ったフローリングに水滴が落ちていた。また一粒落ちる。君がまた泣いていた。背筋が寒くなる。
「……どうした」
声が掠れた。こらえるように君は目を押さえて絞り出すように言う。
「ごめんなさい」
「……何が」
「何にもできなくてごめんなさい。私はいつも秋山さんに助けられてるのに」
「いや、」
「秋山さんが何かに苦しんでても何にもしてあげられないんです」
違う君は俺に沢山を与えているじゃないか。どうしてその君が泣くんだ。君は何も分かってない、俺が君を助けるなんて当たり前のことなんだよ。そこに負い目を感じる必要はどこにもない。俺のために君が泣くなんてあってはならないことなんだ。
夢の続きだ。
手が震えた。堪えるように握り締めた小さな拳をそっと引いて抱き寄せた。きっと笑えるくらい不器用だろう手つきで柔らかい髪を撫でる。俺は今君のために在れていますか。君の涙を止めるために生きていると胸を張って良いのでしょうか。
止まらない嗚咽を聞きながら俺は、振りきるように君を強く抱き締める。















Title:クロエ
折角祭なのでフリーな話も上げてみたいなと開催当時から思っていたのでやりました。しかしフリーなのにこの湿っぽさ……いや、6月らしいと思っていただけたら嬉しいです
お互い相手から貰ってばっかりで申し訳ないなぁと思い続けてる二人と読んでいただけたら幸いです!お気に召していただければどなたもお持ち帰りいただいて結構です、というより雑巾代わりにこぼれた牛乳を拭くという手もあります
最後になりましたが読んでいただいて本当にありがとうございました!
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