気だるいような泣き叫ぶようなボーカルの振動で耳を塞いでやるんだ。耳全体を覆うヘッドホンは本当に便利だよ本当に。
知ってるかな知らないだろうね、ポーカーフェイスの下ってのは大概常人は眉をひそめるくらい暗鬱な渦が巻いてるんだ。吐こうとしてもそう簡単に食道を通過してくれないような粘度の高さでさ。知らないだろうね。安心する。
「神崎さんは俺が死んだらどうする?」
小さい手に包まれたカップの中の茶色がとぷんと揺れて大きい目が更に見開かれて、これしきに腹の奥の方に妙な歓喜を感じるようになってしまった俺はどうしたらいいかな。教えてくれよ大人。いつも振りかざす、俺がしがない細胞一粒であった時代に飲み下した経験とやらでさ。
「俺は明日死んじゃうかもよ」
「……冗談でも、」
「言っちゃ駄目?答えられないのを人の倫理観のせいにして誤魔化すのは無しだよ」
そうだよ見放されるのが嫌なんだ。恐いとは言わないけど。基本捨て身だからさ。だからわざとこんな言葉吐いて煽ってさその愚直に漬け込んでさ。怒って泣いてくれたらね。ばかそんなの言わないでって言ってもらえたらそれでね。
資格がないとは思えない。現にあの男だって限りなく近い手段で彼女に取り入ったんだ。彼女は多分何だって受け入れてくれるんだよ例えあんたじゃなくたってね、俺が弾かれる理由なんてどこにもない。
「久慈くんのばか」
「馬鹿正直に言われちゃうとは」
それあの男にも言ったことある?俺は今あの男と同じ土俵に立てたのかな。許してよ。決して王道じゃないって分かってるんだ。腹の奥の歓喜とは別に心臓の辺り、あと頭が割れるみたいに痛くてさ。ああ俺本当に明日死ぬんじゃないかな。だったらこの際王道進んだっていいんじゃないの。殆ど反則技で取り入ったあの男のインパクトを吹き飛ばすような絶叫を以てしてやればいいんじゃないか。見放されて立ち竦むリスクはもうないよ。
「本当に」
「?」
「神崎さんは馬鹿です」
ヘッドホンを外した途端周囲の微かな喧騒が耳に飛び込んでくる。耳を塞ぐものは何もない。なあんにも。
「そろそろ帰るよ」
「え」
「受験生だからさ、俺」
「あ、じゃあ」
「自分の分は先に払っとくからいいよ。あんたに払わせたらあの人が恐くて仕方無いからさ」
どうせ叫んだところで、届いた先には隣にあの男がいるんだろう。
いくら汚なかろうがぶちまけたものを踏みにじられるのだけは、まだ、見たくないだけで。
















BGM:月に負け犬
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