願ってもない事態だ!場違いを承知で俺は一人心中でガッツポーズを決める、当の彼女はぱちぱち瞬きを繰り返した後に律儀に頭を下げてくる。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな直ちゃん」
嘘だらけのゲームにおいて巡り会えたのが、この無垢が服を着て歩いているような彼女だ。直球でタイプだった。惜しむらくは彼女にはそんじょそこらの小悪党なら3秒で捻り潰せるような最悪な番犬がついていることだ。何せかの有名な秋山事件を引き起こした張本人だ。こいつ、直ちゃんの為なら俺らなんて即決で蹴落とすんじゃね?と尽きぬ疑い。
だがしかしこれは好機。作戦の都合上二人一組で偵察に出ることになったのだが、籤でその組み合わせを決めることになったのは俺にとって幸運だったのだ。修学旅行の肝試しかよとぼやく秋山に楽しそうです!と微笑む直ちゃん。くそ可愛いな!可愛い!対して心底嫌そうな秋山のこの顔だ、どうせ問答無用で直ちゃんとペア組む気だったんだろ、させるか。
で、結果はこの通り、俺と直ちゃんの奇跡のペア完成。秋山はよく知らない高校生くらいの女の子と組んでいた。あの瞬間の心底絶望しきった顔が忘れられない。女子高生、そいつの傷心癒してやって。
「行きますよ偵察!」
ぐっと拳を握る直ちゃん。
「やる気だね」
「私、騙されて秋山さんに迷惑かけてばっかりですから。せめてここくらいは役に立ちたいんです」
「へぇ、二人は付き合い長いの?」
「一回戦から助けてもらってます」
くそ羨ましい。前科者のくせにどうしてそんなうまいポジション確保してんだ。
「でもさぁ、俺あいつのことちょっと苦手なんだよね。愛想ないし容赦もないし」
「えっ」
「直ちゃんがいなかったら正直俺、あいつ裏切って別のチームに情報売ってたね。君がいたからさ、」
「そ、そんなの駄目です!」
突然立ち止まって叫ぶ直ちゃん。え、待って俺の口説きのイントロぶった切らないで。無闇に真剣な顔で俺をまっすぐ見つめてくる。
「秋山さんは本当はすごく優しい人なんです!私のことなんかも見捨てないで助けてくれるし、皆さんのことも何とか助けようと頑張ってくれてます!」
「あ、いや別に俺は」
「確かに私も最初は少し怖いなって思ったんですけど、いつだって私の為に駆けつけてくれるし、頭もすごく良いしかっこいいし何でも出来ちゃうし、この前お礼にご飯作らせてもらったときもちょっと笑ってありがとうって言って頭撫でてくれて!」
「……はい」
「そんな素敵な人なんです!ちょっと冷たく見えるかもしれないですけど、お願いですから秋山さんのこと嫌いにならないでください!お願いします!」
「……すんませんでした……」
ふぅふぅ息を吐きながら力説する彼女に俺はそれだけ言って脱力する。
もしかしてこれ、幸運どころか大殺界じゃないのか。





是非ともお引き取り願いたい事態だ!ねえ泣いていいかな。負債背負った方がましなんじゃいかと思うくらい私に課せられたミッションは酷い。
籖運の悪さを心より呪うしかない。何で私がこの血も涙もない詐欺師とペア?顔の良さを性格と前科でマイナスまで一気に押し流すその激動ぶりに最早目眩しか起こせない女子高生こと私。まじで怖いまじで怖い。知ってるよ、本当は神崎さんとペアになりたかったんだよね!それが私と組んじゃって、それどころか神崎さんは何だか下心剥き出しのチャラい兄さんに連れられて行っちゃったからもうその脳内はどうせ地獄絵図なんでしょ!あのチャラ男、負債は負わなくて済んでも後々人生に大きな傷を残しそう。合掌。ついでに私も死亡フラグ。
「……情報……拾えますかねー?」
「無駄口叩くな」
「すいませんでした!」
もう駄目だ死んだ私!17歳という若い身空で魔王を見た!いつも鋭いあの目が今や絶対零度の怒りでぎらぎら光ってる。私が死んだらとりあえずあのチャラ男に取り憑こう。祟ってやる。因みに秋山には返り討ちにあいそうで恐いからやらない。
ぎくしゃく大魔王の隣を歩いていると、ふとこちらにその目が向けられる。
「おい」
「……何すか」
「神崎直をどう思う」
………禅問答か。迂闊なこと言ったら殺られる。
「……いい人、だなぁと……優しいし嘘つかないし」
「ふん」
何故そこで鼻で笑う!?駄目!?今の回答駄目なのか!
「ええと、私みたいな年下相手でもちゃんと接してくれるし。自分が負債背負うことになってでも他のプレイヤーを助けて回ってるって聞くし、ちょっとあまりにも馬鹿正直だなって思うこともあるけど」
「そこがいいんだろうが」
「は、」
「その真髄が分からない奴にあいつに近付く資格はない、そう思うだろ」
「……はあ」
「という訳でだ」
にぃ、と薄い唇がつり上がった。やめてくれ!ショック死する!こんなに笑顔が恐い男を初めて見た。
「お前、あいつらが偵察から帰ってきたら自分が何をすればいいか分かるな?」
「……あのチャラ男に、調子乗ってんなカスって女子高生特有のノリで言わせてもらい、ます……」
「よろしい」
満足げに頷いた詐欺師は何だか軽い足取りでさっさと先に進んでいく。鉛みたいな足を引きずって追いかけようとしてふと思った。
あれ、待って?今の要約したら『ねぇねぇ2組の佐藤君ってどう思う?実はね私佐藤君のこと好きなんだぁ協力してくれない?』のテンプレ?
「……恋バナ……?」
女子高生だからって若干気を使った話題を振ったつもりなのか?いやまさか。





「秋山さん秋山さん大変です!さっき秋山さんとペアだった女の子が急に私のペアの人に殴りかかって!『お前のせいで死にかけた死ね』って泣きながら暴れまわって止まらないんです助けてください!」
「チャラ男が半殺しになったあたりでまた呼んでくれ」
「秋山さぁぁん!」
「すげーな若者の力って」










Title:age
高良さんリクエストの「無自覚にのろけあう二人、第三者目線」でした!
のろけ……?あれのろけってなんだっけ。そして秋山は無自覚じゃないな、完全なる確信犯だな
色々と添えてない散々たる結果となりましたが、鼻で笑っていただけたらもうそれで満足です!←
リクエストありがとうございました!
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