「よろしいですか。いくら紳士ぶって殊勝な振る舞いをしていようと所詮彼らもY遺伝子に支配された野郎なのですからね、ええ、もしも組み敷かれた場合は慌てず騒がず。先日お送りした荷物は届いていますね?そう、その中に掌サイズの機械があるでしょう、ええ黒いものです。それを彼の腹に押し付けて横に付いてるスイッチを押して下さい。その後110番です。いいえ躊躇ってはいけませんよ今更前科が一つ増えたところで変わりはしません。ああ、それから秋山くんの携帯も小まめにチェックすることをお勧めします、女の名前もしくはあからさまな偽名がある場合は要注意ですからね。もしロックが掛かっていた場合は私のところに持ってきていただければ責任を持って解除してみせますから。浮気の証拠が上がった際も連絡してくださいね、生まれてきたことを後悔させてやります、彼に」
「既に後悔している」


携帯を奪い取った彼は電波の向こうの彼女に「切るぞ」と短く告げて電源ボタンを押した。
「返してください」
「お前、あいつといつも何の話をしてるんだ」
「分かりませんか。君が神崎さんを泣かせていないかの確認ですよ」
「何が確認だ、勝手にスタンガンなんか持たせるんじゃない」
「毒針と最後まで迷ったんですけどね」
「アマゾネスか」
吐いても吐ききれぬとばかりに悪態を振り撒きながらかつての同級生は向かいのソファに足を組みカップを傾ける(口をつける一瞬躊躇ったのを見逃さなかった)。
「余計なことをしてくれますね」
嘆息した白髪は首をすくめて見せてくる。
「天使のような彼女にそんな不粋な代物を与える神経が理解できませんよ、心理学者が聞いて呆れる」
「スタンガンの餌食になる所業を行う気でも?ならば私が直々に息の根止めて差し上げます」
「ふふ、可愛い神崎さんのためにここで死ぬ訳にはいかない」
「「死んで良い」」
思わず同時に即答してしまい、お互い忌々しげに睨み合った。不愉快だ。早く彼女が研究室に来てくれまいか、そればかり考える。
「とにかくお前ら、俺に無断であいつに妙な物を与えるのはやめろ」
「無断で?いつから君はそんな大層な身分になったんですか。私が彼女に何を尽くすかは私の勝手でしょう」
「黙りなさい白髪、下心が見え透いているのですよ。神崎さんの手を握るだの肩を抱くだのセクハラにも程があります」
「お前いつそんなことを」
「秋山くんが席を外す度にやってます」
「よし、死ね」
「待ちなさい秋山くん、さっきから聞いてますが君は彼女の何ですか。特別な関係でもないのに、ことあるごとに彼女の家に入り浸り手料理を食べる君に何の権利があって私の行為を責められようか」
「…………」
珍しく絶句する元同級生を思わずまじまじと眺める。成程これがアキレス腱だったか。
「秋山くん、まさか君、未だに神崎さんとは何も」
「……悪いか。そして待て」
聞いた瞬間身を翻して研究室を飛び出そうとする私と白髪の襟を彼はがしりと捕まえる。
「どこへ行く」
「決まっているでしょう、彼女がフリーな今、先手を打った者が勝つのです!」
「ふん、貴女が携帯を秋山くんに奪われている今、アドバンテージは私にある」
「卑怯者!」
「何を言うのです、これはライアーゲームですよ?」
「もうファイナル終わっただろうが」
「認めない!崖の上のプロポーズなんて私は認めない!」
「何ですかその毒針!」
とりあえず手近にいた白髪を冥土に送ろうとした瞬間、三人の間に電子音が間抜けに流れる。自前の携帯を耳に当てる元同級生、素振りから察するに相手は他でもない彼女である。
『あ、秋山さんですか!』
「どうしたんだ、随分遅いな。何やってる」
『さっき家を出たんですけど、道に迷ってる方がいらっしゃって。〇〇会館に行きたいらしいんですけど、遠い所らしくて私も分からないんです。秋山さんならもしかしてご存知かと、え?喫茶店?いえ私人をお待たせしていて、いえそんな悪いですあっメルアドならお教えしま、』
「おい」
『あ、ごめんなさい!何ですか』
「その男に代われ」
『え?何で男の人だって』
「いいから代われ」
底冷えした声と共に一瞬送られた目線に、私と白髪は無言のまま素早く研究室を出た。足早に廊下を進む。
「毒針の出番ですね」
「実験台には最適でしょう。次は貴方ですけどね」
言いながらちらりと、自らの研究室を振り返る。あの男が彼女の何であるか。野暮な問いであった。部屋の中心で悪魔が笑っている。


















てるこさんリクエストの「ヨコヤと葛城嬢と秋山の直ちゃん総受けバトル」でした。
うわぁこの三人書けなくなってきてる!長いことこの三人衆を相手にしていなかったせいか、出来が非常に不安です……なら書き直せって話ですが(事実リテイク3回目)(馬鹿である)
素敵なリクエストを本当にありがとうございました!
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