収めようとしたってままならない荒い息のせいで揺れる頭が余計に痛むのを、もはや他人事のように感じている。
会えないなぁ、思った。目下のところ心残りはそれだけだった。
這い出すように布団を抜け出して、動けなくなる前に何とか調達して冷蔵庫に放り込んでおいたスポーツ飲料とついでに体温計を握りしめてまた戻る。その僅かな運動でなけなしの体力はとっくに尽きた。一口飲んで、喉の痛みに吐き出しそうになる。
高い電子音とともに叩き出された数値はもはや笑うしかないような程度で。嘘だろ汗もかいてんのに。いい加減下がっても良いだろうどうなってんだ。全ての用事を諦めてベッドの中で過ごした半日を返してほしい。ついでに風呂にも入りたい。
会えないなぁ、思った。多分今連絡をすれば血相を変えて飛んでくるだろうという確信があった。絶対に悟られてたまるかと妙に決心を新たにする。うつったら悪いというのは建前であって(勿論理由の一つではある)、実際はただ、こんな様を見せたくないだけだった。
脈拍と一緒に疼く脳はもう、頭蓋骨の中で撹拌されてどろどろの液状になってるんじゃないか。熱のせいかまたふざけたことを考える。このまま死んだりして。体調を壊したことなどいくらでもあるのにそんなことを思っている。
幼児じゃあるまいし。まるで一人きりが恐いみたいだ。彼女のせいだ。八つ当たりのように思う。孤独に対して耐性が随分減った。彼女がいないのが悪い。
彼女が知らないうちにさっさと治してしまうか、いっそのことひっそり死んでしまいたいなと思う。同時に今すぐここに来て手を握ってほしいなんて思うから、もう俺はどうしようもないところまで来てるんだなと思った。どうせ、素直に助けなんて呼べないくせに。
体の芯からくるような悪寒に目を閉じる。やみくもに伸ばした手の先に硬い感触があった。あ、と思った瞬間、それが細かい振動を起こす。自分でももどかしいような緩慢な動作で携帯を開いた。メール。慣れ親しんだ名前。可愛らしい絵文字を添えた『おやすみなさい』。
どうして、こんなときに、まるで俺の決心を挫くようなことをするかな。思わず笑みが漏れる。そうとも、もし彼女が寝込んで一人きりの夜に潰されそうになっているなら俺は迷わずそこに駆け付けるだろう。だからこそ絶対に俺は彼女に縋らない。唯一の家族の死期に怯える彼女に一片たりとも不安など与えてなるものか。いつだって守ってやりたいのに。
上手く動かない指をやっと動かして、『おやすみ』と我ながら素っ気ない返事を打つ。送信ボタンを押した瞬間力尽きて、硬い感触は手から滑り落ちて枕元で小さく跳ねた。
ますます明確になった頭痛に顔をしかめる。それでももう、恐くはなかった。















誰かを想えばまだ頑張れる、みたいな話
Title:クロエ
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