じゃあねなんてどうしてそんな軽く手を振っちゃうんですか。見てください時計、まだ終電には早くないですか。お話したいことまだたくさんあるんです。いえそんな、そんなことは考えてないです、そんなおこがましいことは決して、そうだだって次のゲームはもう明後日に迫ってるんですよ。不安なんです。毎日くれるメールじゃそろそろ満たせないくらい胸の中で暗いざわざわするものが暴れ回ってて。ごちそうさま美味しかったよって笑う顔を見たときはそんなものすっかり忘れてたのに今更また思い出したんです。
でも、そんな言葉を全部ぶちまけるのは、一人になるよりも怖いです。秋山さんに迷惑に思われるのはまるで世界に一人ぼっちにされるようなものだと思います。あの人がいなければ私はあのゲームで一瞬だって生き残れないからでしょうか、私にはよく分かりません。
喉元まで込み上げる熱いものをぐっと飲み込んで私は笑顔を作ります。本当は行かないでくださいって、靴を履く背中にしがみつきたいのを我慢します。永遠の別れではないのだから、きっと彼はまたこの部屋に来てくれるのだから。寂しく思う必要なんかないのです。いえ、本当に来てくれるでしょうか?だって私と秋山さんは決して、恋人だとかそのような甘い関係ではなくて、だからといって大人の交わす拘束力ある契約のようなものも持っていない、ささやかなままごとのような関係なのですから。いつ終わってしまうかも定かでないのです。
じゃあねともう一度言った秋山さんは振り向くこともなく玄関のドアを開いてすぐに出ていってしまいました。おやすみなさいも言えませんでした。泣き声を出して秋山さんに煩わしく思われたくなかったのです。
恋愛というものは、きっと私のようなまだまだ未熟な子供は扱う資格のないものです。だから、例えばの話ですが、もし、万が一、私が秋山さんを好きだなんて言ったってそれは優しいあの人の足を引っ張るだけで終わるのです。素通りされるのかもしれません。そしてきっとそうなってしまったら私は二度と秋山さんと顔を合わせることもできなくなって、この部屋で一人泣き続けて干からびて死ぬんだと思います。
そうして涙の海に浮かんで流れて行くのです。あの人のところに。
「馬鹿正直」
殆ど私の名前のようになってしまった言葉に頭を上げます。いつの間にか再び開いていたドアから頭を覗かせた秋山さんは悪戯が成功したような失敗したような複雑な顔をして、溜息をつきました。
「行かないでって言われるの、期待してたんだけど」















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -