失望するのは他でもない自分に対してだった。淡白を装っていようが皮一枚剥がせば結局そこには浅い欲望が張り巡らされていることを思い知らされたのはいつのことだったか。だからこの手は彼女に触れたのだ。
だけど、一つだけ信じてはくれないか。

「どうしたんですか」
「何でもないよ」
「……ふふ」

投げ出された小さい手を握った。そうすれば微笑むのを知ってる。それで良かった。そんな願い一つで自身全て正当化しようとする自分を笑う。優しくない。彼女が万人に惜しみなく与うその愛とは似ても似つかないただの自慰行為だった。

「寂しがり屋さんですね」
「君程じゃない」
「ふふ。じゃあ、離さないでくださいね」
「いいよ」

嘘つきと正直者大人と子供隔たりは大きいね自分でさえ嫌になる。
何度も繰り返すその文句は、結局は保身のためだった。俺が彼女を傷付けるなどという事実に耐えられない俺のためでしかない予防線だ。どうすれば君のために何が出来るか、そればかり考えている。何をしても結局俺のための行為になってしまう気がした。出来ることなら俺が持つもの全部与えてしまいたいのに。

「お手軽な奴」
「え?」
「手握るだけで満足?」
「ちっともお手軽じゃないですよ」
「え?」
「秋山さんが私のそばにいてくれることは凄いことなんです」
「そうかな」
「そうなんです」

与えるどころか与えられてばかりだ。少しでも返したいのに上手くいかないのはどうしたことか。彼女を守るのは、単に彼女に俺のそばにいたいと思わせるためだった。撫でてやるのも笑いかけてやるのも慰めてやるのも、単に彼女がいつものようにふにゃりと顔を緩ませて笑うのを見たいからだ。そこには全く慈悲なんか含まれていやしないことを恥じる。なのに彼女はそう言って微笑むから俺はただ目を伏せる。

「俺は君が思うほど優しい人間じゃないよ」
「そんなことないです」
「君の幸せを願ってる訳じゃないんだ。全部俺の為でさ」
「なら私だって一緒ですね」
「………」
「秋山さんを利用してます、私」

もし彼女の言う通りだったらどんなに良いだろう。疑い深い俺の脳はそう簡単にはその言葉を受け付けなかった。皮膚一枚剥がした下の欲望は、どう考えたってひたすらに俺を中心としていた。それでもだ。いつかそれを信じることが出来る日が来たらどんなに良いだろう。

「ありがとうございます、秋山さん」

返事ができなくて下手くそに笑うと、君もまた笑う。















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