(懲りない学パロ)


「福永先輩はどうしてこの部に入ろうと思ったんですか」
「んー?」
体格に余りにも釣り合わないごっつい機材を全身で抱え込んだ後輩の言葉に首を傾げる。ついでに案の定滑り落ちた三脚が地面に衝突する前にキャッチしてやった。
「ちょ、気をつけてよ!貧乏部活は三脚一つ大事な財産なんだから」
「す、すいません!」
「もー分かったよ、てか何で直ちゃんがそんなでかい物ばっかり持ってんのさ、ほらこっち持っといて」
「江藤さんが皆の飲み物買ってくるって……あっ、ありがとうございます先輩」
「壊されちゃたまんないし」
記録用紙を押し付けて望遠鏡やらカメラやら取り上げる。まあ、例の首席部長ならあの魔王スキルを以てして機材の一つや二つ分くらいの予算は余計にもぎ取れるだろうけど。この子の為だったら。馬鹿らし。夕焼けのオレンジで塗られたこの後輩が慌てる顔が面白いから黙っておく。
「で、何だっけ?俺の入部動機?」
「はい」
「別にたいした理由じゃないよ、部員がいなくなって事実上廃部状態だった天文部を、何を思ったか秋山が復活させて。何故かヨコヤと葛城がそれに乗って、面白そうだから俺もって。秋山としては学校の金毟って一人で好き勝手したいからこんな辺鄙な部に入ったんだろうけどねー」
「仲良しだったんですね、先輩方」
「いやいや何言ってんの。あのね直ちゃんは知らないだろうけどね、部員全員が集まって天体観測なんてこれが初めて」
「え!」
「お互い馬合わない奴らばっかりだもん。秋山が一人で時々望遠鏡担いで行くくらい?ヨコヤと葛城が嫌がらせで邪魔しに行く度にあの毒々しい三つ巴でさ、俺はそれを肴にするのが日課で」
そうとも俺達には青春を共有するほどの義理も情もない。互いの存在のせいで飯がまずくなる程度の人間達の付き合いだった。
てことは俺今すげぇ滑稽?くそ重い機材抱えてさ。大して興味もない空見上げて雲の有無に一喜一憂してさ。何でこんなことになってるのか、原因は今俺の後ろを紙の束抱えてちょこまか追い掛けてくる。
「今、どんな星が見えるんですか」
「うしかい座α流星群が活動するって言ってたかな」
「どんなのですか」
「俺も知らない」
αて何。いつもの無愛想を崩さない部長ならご存知かな、後で聞こう。
「あれ、ていうか秋山どこ」
「何か用か」
「気配を消すなァァ!」
何で俺らの背後に回ってるかな!髪で隠れた片耳からイヤホン引き抜いて「晴れるらしいな」とか呟かなくていい。
「あれ?先輩、ヨコヤ先輩達と先に行ってたんじゃ」
「向こうの準備はあの二人に任せた」
「げ、なにそれあっきー超リスキー!あの二人の監督する奴いなかったら途端に共食いでも始めるんじゃないの」
「虎の子渡しか」
冷たく俺に返して、我等が部長は直ちゃんの肩に持っていたパーカーを掛けてやる。ああ、それ取りに学校まで戻ってた訳ね。風邪引くぞ、とか!俺らも引く!馬鹿じゃないだけ直ちゃんよりもその確率高いって分かってるかな!
それにしても嬉しそうにお礼言われて分かりやすく表情筋緩めてさ。ていうか、そもそも俺らと絡みたがらないこいつが、悪いものでも食ったみたいに突然全部員での天体観測なんて企画したのだってさ、この子のためなんだろ。この子に見せてやりたいものが沢山あるんだろ。
だせぇ。青春すぎる。さして荷物にもならない記録用紙を半分奪ったのだってどうせ隣を歩く口実だし。
「何見てんだキノコ」
「チンピラみたいな因縁の付け方やめてあっきー。俺今直ちゃんに代わって重い重い三脚と望遠鏡担いでんの」
「あ、ごめんなさい代わります!」
「いいよ壊されるくらいなら甘んじて俺が持つって」
「落としたら潰すぞ」
「想定内の制裁!」
ああもう分かってんだって。俺らが言えた話じゃないよね、あの仲悪いヨコヤと葛城が秋山の言うこと聞いて一緒に準備してんだってよ。ついでに俺はクソ重い機材抱えつつ足取り軽く青春中二人に追いついちゃってんだよ。大体何でうしかい座αなんて知ってんのさ俺。何まるで楽しみな遠足準備みたいに色々調べちゃってんの。何のためと言われたらね、そりゃさ。
「天気予報当たったらいいね、直ちゃん」
「そうですね!」
どいつもこいつもたった一人の後輩に振り回されてさ!悔しいからよろけたふりして今にも手でも繋ぎそうな二人の間に割り込んでやった。蹴られたけど。














Title:クロエ
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