泣いて部屋を飛び出すなんて生まれて初めてだった。うわべでしか人と関われなかった私は友達とそんなに激しい口論をすることなどなかったし、僅かに芽生えもしていた反抗期の衝動を振るう前に父は既に入院していた。ただそれだけの理由ではないかもしれないけれど、とにかく、そう、救いようがないくらい私は子どもだった。彼を目の前にしても何も言えないくらい。
嗚咽が言葉を邪魔する。赤ちゃんみたいにひたすら泣く私は、あの人にはとんだ厄介な生き物に映るだろうから余計に涙が出る。両手で擦る目元がひりひり痛む。
「大っ嫌いです」
やっと吐き出した。よれよれの馬鹿みたいな言葉。
傷付いてしまえばいいのに、子どもの言葉はやっぱり非力で、目の前で彼は眉ひとつ動かさないから、止めるのをやめた。もう一回大嫌いです。もう一回。
私が傷ついた分だけ傷付けだなんて我儘は嘘だ。本当は嫌いになってくれたらいい。ごめんなさいも言えない私は本当に子ども以下の、赤ん坊みたいなもので。
「大嫌いです」
ねえどうして分かってくれない、あんまりに違いすぎる人を好きになってしまった私は、どうしたらいい。あなたの一挙一動にぼろぼろになって。些細な喧嘩でもしたらこの世の終わりみたいに泣いて。呆れてるでしょう。あと少し。
「大嫌いです」
どうしてこの人は、すぐに私を追いかけてきてくれるのだろう。何故今私の前で息を切らして、途方に暮れた無表情で、無言のまま立っている。
「あきやまさん」
「ああ」
やっと返事が返ってくる。
「どうして言ってくれないんですか、私待ってるんです」
嫌いって。嫌いって一言言われたら。
「嘘でもいいですから」
「…………」
「嘘つきなのにどうして」
何も言えないんですか。
僅か10分前のささやかな喧嘩はもう遠い。私と私をぎゅうと抱き締めるあなたの間、ほんとうもうそも、もう、意味をなくしていく。







ねこじたの浅さんに捧げます。
浅さんがまさかのジェバンニぶりを見せてくださったのでここは一つ私もかつてない仕事率を見せてやるぜ!と頑張った結果クオリティが見事にお留守です
そしてさして早くもない!馬鹿!
喧嘩してもすぐ仲直りな秋直を、というご要望だったのですが……可愛くない!浅さんから頂いた可愛い夫婦秋直を逆走する勢いで可愛くない!
すいませんこんなのでよければお納めください。改めてよろしくお願いいたします
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