臆面もなくこの子は綺麗ですと呟く。字面だけ見りゃ安い口説き文句、それがこの子が口に出すのを聞くとどうにもむず痒いような居心地の悪さがするからアタシは眉を寄せてふっと息を吐いて笑った。どう勘違いしたのかは知らないがこの子は眉尻を下げてこの世の終わりのような顔をする。
「何」
「大人なんですよね、フクナガさんは」
「喧嘩売ってんの小娘ぇぇ」
「痛いです痛いです!」
こめかみに拳めりこませてやってると、案の定過保護な詐欺師が飛んできて軽い動作で間に割って入ってくる。ああこの容易さが忌々しい。この男に敵はないのか。それこそ子供にしてやるみたいに頭を撫でてやってから詐欺師はまたどこかにいなくなる。そんなに忙しいなら来るんじゃねぇ。
「別にそういう意味じゃないですよぅ」
「そういうって指す時点であんた意図してるでしょう」
「違いますって!」
力強く振った拳まで小さいんだから。だからほだされるんだ。呆れた。それから、人のことが言えないことに思い当たって軽く死にたくなった、らしくもない。
「フクナガさんみたいな大人の女になりたいんです」
「無理」
「ひどい!」
そりゃあんた無理よだってあの詐欺師はあんたが大人になったらそれこそ生きていけなくなるものね。大体あんたがそんな無茶な背伸びをしたがる理由なんて、それこそあの男を追いかけるためでしょう。釣り合いたいだなんてささやかで巨大な願望を抱えて立ち尽くすくらいならねぇ。
「秋山ぁ」
呼んでやった。ぐるっとあの明るい色の頭がこっちを向く。手招きしなくても来るくらいの愛想見せろよ、呼ばれなくたってこの子のためなら走って駆けつけるくせに。まるでこの子を守れるのは自分だけだなんて言いたげにさ。何て忌々しい。オヤゴコロ?
嘘つけ。気が変わった。
「これ終わったらさぁ、ちょっと直借りるわ」
「えっ」
「何でだよ」
「買い物だよ買い物、目一杯こいつ飾ってやろうと思って」
「フクナガさん!」
「化粧も教えてやるからなー」
ポーカーフェイスを僅か歪ませる詐欺師を横目で見遣って、嬉しそうに顔を輝かせるこの子の頭を撫でてやった。詐欺師の真似。洒落にならないな。何せこの詐欺師は自分だって見事に騙すのだ、ありきたりな劣情を崇高な庇護心にすり替えてさ。
ねぇこの子が大人になったら、あんたはその瞬間死んじまうだろうね。それで大人になった彼女があんたを次の瞬間生き返らせてさ。実に陳腐な展開が待ってるだろう。手塩にかけて作った高潔で美しい寝物語を地に叩き落としてやる。天才には屈辱的すぎるか?
「フクナガさん大好きです!」
「はいはいアタシも大好きよ」
いい気味だ。









Title:クロエ
Johnさんリクエストの「秋→←直+福永」でした。なんか……最近の私は物の見方が27度ほど傾いていやしませんか
原作でもドラマでもいいという許可をいただいたので、ひゃほぅどうせならナガ様書こうっと!直ちゃんとキャッキャガールズトークさせて秋山に若干イラッとしてもらおう!とか思った結果こうなりました、何か違くね
ナガ様のいい女ぶりが……書けたらよかったのにな……がくっ
お好きに処分してやってください!リクエストありがとうございました。
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