まだ不思議に思うんだよ。目を覚ましたとき隣に君の寝顔があるってことが。言葉にはしないけど。うん、口で言うほど簡単なことじゃないからだろう。口で言わなきゃ伝わらないことだけど。
頬にかかった幾筋かの髪の毛を起こさないように払ってやる、指先に触れた温さとか柔らかさとか、どう考えたって未だに子どもじみてるそれらが俺を脅かすことに君は気付いてないんだろうね。らしくもなく息苦しくなるんだ。どうして君はまだいなくならずにここにいるんだと分からなくなる。
やっぱり言おうか。君が目を覚ましたら何もかも隠さず吐き出してしまえば、多分笑ってくれるだろう。でもやっぱりやめようと思う。
昔の方が楽だったな。君が笑っていられることだけ考えていられた。今はもう駄目らしい。ごめん。欲が出た。君の笑顔の横にいられたらいいなんて考えた。だから苦しいんだろう。自業自得だね。ごめん。
子どもがぐずるような声を漏らす君を抱き締める。背中を撫でてやる。夢の中でだって寂しい思いはさせてやりたくないんだ。罪悪感を埋めるための行為かもしれない。
小さな手が俺のパジャマを掴んだことに訳もなく安堵したりして。もしかして君は夢の中で、俺と同じことを考えてるんじゃないか。俺を一人にしないようにだなんて。
彼女が寝ててよかった。暗くてよかった。こんな顔見せる訳にはいかないし。自惚れていいかな。俺達はお互いに寄り添って生きていくことができますか。俺が君を守る代わりに君が俺を支えてくれるんて、虫のいいことを夢見ます。朝になったら君が台所で笑って俺を迎えてくれて、夜は玄関で。同じものを食べて同じ布団で眠って、同じくらい老いていく。そんなことを考えては自分を笑うんだけど、もしかしたら君は笑わずに聞いてくれるような気もする。
額を寄せた君がそっと笑った。溜め息が零れた。
気付いてしまったんだよ、俺は幸せなんだ。だから馬鹿みたいなことまで願ってしまうんだ。神様どうか俺からあの子を奪わないでくれませんか。お願いです。身の程を弁えてないのは分かってますから、まだあの子の傍にいたいんです。なんて。
俺の負けです。目が覚めたら、仕方ない人ですねって笑ってくれ。











Title:泳兵
ソウさんリクエストの「幸せをテーマにした秋直」でした。
リクエストを頂いてから幸せって何だァァ!と考えまくった結果こんな地点に着地するという
無くすことに対して一抹の不安がつきまとってこそ幸せって味わえるじゃない、という認識でした
もっとほっこりさせれば良かったかもしれないです、ソウさんごめんなさい
煮るなり焼くなり玄関マットにするなりお好きにどうぞ!リクエストありがとうございました!

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