君がくれたもの
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過ごした時間はあっけなく、まるで夢みたいに終わりを告げる。

「今、なんて言った?」
「もうお別れです、秋山さん。」

秋山は意味が分からないという表情で直を見た。直はいつものように、まっすぐ秋山を見つめている。
彼女の瞳には迷いの色はなかった。

「―――そうか、元気でな。」
「止めないんですね。」
「止めてどうなるんだ。そもそも俺たちは最初から他人だったろ?お前がそう決めたなら、俺だってこれ以上関わる義務も義理もないからな」
落ち着いた声で直に告げる。
秋山は直をまっすぐ見ることは出来なかった。

「…嘘。つかないでください。」

「だったら、どうしてそんな顔するんですか?」

部屋がしん…と静まり返って、秋山の心を圧迫する。

そばにいて、と言いたい気持ちが軋む音が秋山の中で鳴り響いて、しかしそれを出すことも出来ない。言葉が、もう出てこない。
俯く。

「秋山さん、私…大好きです。秋山さんの事が。」
秋山に語り掛けるように、直が続ける。
「だから。だから、秋山さんにこれ以上甘えられないんです。生まれて初めて、泣いたり笑ったり出来るほど人を好きになりました。」
「――…。」

「秋山さんに出逢えていなかったら、こんな気持ち知らないままだったと思います。」
「もう…」
「夢みたいでした。秋山さんにたくさん大切なものをもらいました。」
「直、もういい。」
「私、秋山さんに頼らなくてもいいくらい、もっと」
「やめろ。」
言うと同時に、秋山は直を抱きしめる。
耳を塞ぐかわりに、強く、強く。

「もう、言うな。それ以上…」
祈るように呟く。夢のような日々だから、夢のように消えてしまうのかもしれない。それでも、醒めて欲しくはなかった。
「…あきやまさん、夢っていつか醒めるんですよ。でも、心から望めばまた同じ夢が見られることもあるんです。」
腕の中で直は言葉を紡ぐ。
「私、強くなります。今よりももっと。そうしたら、きっとまた…出逢えますよ、ね?」

何のことはない、彼女は俺より強かったのだ、と秋山は思う。きっと、決断が出来ないのは俺の方で、弱いのも俺の方だっただけの話だと。
直を強く抱きしめたまま、
「…お別れだな。」
耳元で呟く。
「はい。」
力強い声が返ってくる。


もしも互いに必要なら、また運命の悪戯で出逢えるんだろう。出逢えなくても、出逢ったことに後悔はしないはず。
お互いに今よりももっと強くなってまた巡りあったなら、その時は――…。












Johnさんから一ヶ月&10000打記念でいただきました!
実はかなり前に頂いていたのですが、なんやかんやでこんなにも上げるのが遅れてしまいました。すいません!
この強くてかっこいい直ちゃんですよ!そりゃ秋山も惚れるよ!お別れ話なのに湿っぽくない、爽やかささえ感じさせる読後感・・大好きです
素敵なプレゼントをありがとうございました!これからもかまってやってください。

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