2010/10/26 00:10

※みょた帝です。
 何故かみょた帝人君は岸谷家で、セルティと新羅と一緒に暮らしています。(というか何故か親子関係です、しかし肉親関係はありません。)
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休日の朝、いつもの平日より遅めの起床。午前九時。
起きてからすぐにやること、ベット脇にある姿見鏡の前に立つ。
寝ぐせの頭はボサボサ、顔は寝起き状態で不細工、両親とお揃いのパジャマはよれよれ……かっこ悪い。
せめて髪型だけでもと寝ぐせで変な方向へと跳ねている前髪を、少し強めに撫でてみる。押さえてみる。くしゃっと握ってみたりする。
しかし、どんなことをしてみても、頑固な短めの前髪はぴょんと元通り跳ねてしまった。
「……」
彼女、竜ヶ峰帝人は、鏡に映るもう一人の自分の前で毎度おなじみの溜め息を一つこぼす。
そんなことしたところで、この格好悪い今の自分に何か変化があるわけではないのだけれど、それでもやっぱりせずにはいられないのだ。

鏡の前でしばらく、髪型を整えたり顔のマッサージをしたりと奮闘していた彼女だったが、特に変わりない身なりに断念し、素直に洗面室へと向かい自室を出ていってしまった。
この時点で午前九時半。

洗面室でも色々な奮闘を繰り返し、やっとのことパジャマから着替えリビングにへと現れた彼女は、それでもまだ前髪を気にしているようだった。
『………おはよう、帝人』
自分の方へと向けられたPDAを目にした彼女は、文字を読み、クスッと笑った。
「…」が三回、きっとまだ寝ぼけ半分だな。
「おはよう母さん、まだ眠そうだね」
『昨日の夜、やっとの思いでボス戦までたどり着いたから……』
「またゲーム?もう小さい子供じゃないんだから、睡眠不足はダメだよ?」
『えっ、うーん、分かった』
分かったと示す相手だったが、どうやら反省している様子ではないよいだった。
そもそも首から上がない、もっというなら顔がない相手(母さんと彼女が呼んだので恐らく女性なのだろう。体型もどこか曲線的だった)の、反省している表情など彼女は今まで見たことなどないが、雰囲気や素振りなどで今日の夜もゲーム漬けするつもりなんだろうと分かった。
長年、同じ空間で暮らしてきたからこそ分かることなのだろう。
帝人は困った人だなと、また静かに笑う。
「おはよう、帝人君。今日の朝は洋食にしてみたんだけど良かったかな?」
「うん、大丈夫だよ父さん。おはよう」
リビングの食卓に眼鏡をかけた若い男が、良い香りのする料理の皿と共に現れる。
女の子にも関わらず、自分の娘を「帝人君」と呼ぶ若い男の様子は、はたから見れば違和感を感じることだったが、帝人本人は特に気にしていないようだった。

そもそも彼女達の食卓は、一般家庭のそれと比べると「違和感」だらけ過ぎていて、いっそありふれた日常生活に見えてしまっていた。
首から上がない母親、白衣で食事に向かう父親、高校生の親にしてはあまりにも若すぎる両親(母親の方は第一、年齢というものがあるのかすら不明)、その違和感だらけの光景を当たり前のように受けいれ未だに前髪を気にしている娘。
「さっきから、なんでそんなに前髪を気にしているの?」
『今日、なにかあるのか?』
「えっ……いや、別に」
「そういえば今日は、いつもより服かオシャレなような気もするし……」
『はっ!もしかして今日、デーt』
「ち、違うよ!そんなんじゃないからね!?」
彼女の動揺でテーブルが大きく揺れ、倒れかけた牛乳パックを首無しの母親がさりげなくキャッチする。
違う違うと変に繰り返す帝人だったが、それが逆に怪しいと本人は分かっていないのだ。
もし母親に首から上、顔があれば、ニコニコと笑っていたことだろう。
『静雄もやっとデートを誘えるようになったんだな……』
「違うってば!」
『なら今日の夜は、遅くなっても大丈夫だから。な、新羅?』
「……」
『新羅?』
「父さんは……父さんは、同級生の娘に手を出すような変態は認めないからな!!」
『何言ってんだお前』
白衣の父が勢いよく立ち上がり、テーブルをこれまた勢いよく拳で叩き付ける。
反動で醤油瓶が倒れ、帝人が「父さん、白衣白衣」というのもおかまいなく、我が家の帝人君に手を出す野郎なんか誰であろうと認めないからな!!と嘆いている。
帝人本人は、うんざりといった顔。
因みにこれも、彼女達の日常的光景だった。

「セルティだってつい最近までは、帝人君に彼氏ができたら相手を八つ裂きにする。話はそれからだっていってじゃないか!!」
いつの間にそんな物騒な話をしていたのだろう、やはりこの両親、化け物だと残りのトーストにかじるりつく彼女は、デートの件を否定するのに諦めているようだった。
壁にかけてある時計を見る、そろそろ家を出ないと。
『その相手が静雄なら話は別だ。アイツは良い奴だぞ、新羅だって知ってるだろ?』
「たとえ静雄だろうが、臨也だろうが……」
「いや、臨也さんはないから」
『母さん、アイツだけは本当に認めないからな』
「うん、実は父さんも、アイツだけはないなと思った」
先程帝人が目にしていた時計に仕組まれいた盗聴器の向こう側で、ある人物が飲みかけのコーヒーを吹きかけ咳込んでいるのだが、盗聴されている側の本人達はやんややんやと他愛もない会話を繰り返していた。

「そろそろ……行こうかな」
自室の姿見鏡の前とリビングを行ったり来たりして、そわそわと落ち着かない彼女がボソッと呟くと、新羅が「父さんも付き合おうか?」と口出しする。
勿論それを「や、いい」とすぐに拒絶した帝人だったが、今回ばかりは口出しするのは父親だけではなかった。
『待ち合わせ場所まで、バイクで送ろうか?』
「え、いや、大丈夫だよ?」
『せっかくオシャレしたんだし、行く途中で崩れるの嫌だろ?』
「本当に大丈夫だし、バイクに乗った方が崩れちゃうよ」
『……そうか』
それに、母さんと一緒だと目立つしとはさすがに言えなかった彼女は、ごめんね?ありがとうと笑う。
結局、娘のデート前でそわそわ落ち着かないのは、彼女自身より両親の方なのだ。
帝人はそれを、悩ましげに思ったりもするが、心のどこかでは喜んでいる自分もいたりするのでたちが悪いなと苦笑する。

違和感だらけのこの家庭ではあるが、両親の娘に対する愛情に違和感なんてものはないのだろう。
普通の一般家庭の方にこそ、ここまで真っすぐな愛情を注がない両親が少なくない現代だ。
やはり、世間は歪んでいる。

帝人が傍らに大きめのバッグを置いて、玄関にしゃがみ込む。
靴箱に並ぶ靴達とにらめっこしている後ろでは、両親が「こっちの方が今日の服にあっている」「いや、デートなんだから動きやすいこっちの方がいい」「じゃあ、こっちなんかどうだろう」などと話し合っていた。
そして、彼女がこれにするといって取り出した茶色のブーツは、中地が花柄で少しだけヒールの高いブーツ、つい最近に両親から贈られた彼女の今一番のお気に入りだった。
そのお気に入りを履いて、玄関にある鏡で再確認。
それが済んだ後に後ろにいる両親へと向き直り、「おかしくないよね?変じゃない?」と不安そうに聞いてみる。
『おかしくないよ、大丈夫』
「帝人君は何を着ても、どんな髪型をしても可愛いよ。安心して……うぅ」
『ほら、娘の初デートなんだからちゃんと言え』
「分かってるよ、セルティ……い、ってらっしゃい帝人君」
『いってらっしゃい、帝人』
本当は心底行かせたくないという父親の顔をみて、緊張のせいで強張っていた帝人の顔が少しだけ笑みを零した。
「いってきます」




『なぁ、新羅』
玄関の扉を開き、歩いていってしまった彼女の後ろで、セルティが白衣をちょいちょいっと引っ張る。
『帝人、あんな高いヒールで転んだりしないよな?大丈夫だよな?』
PDAの文字を読み、新羅はあははと軽い笑いをあげた。
「そこまで帝人君はおっちょこちょいじゃないから平気だよ」
『………そうだよな、うん。でもあんなオシャレな服を着たり、ヒールを履いたり、いつの間にか帝人も大人になったんだな』
「大人?」
『いつまでもアイツは、子供じゃないってことだよ』
「……あぁ、そうだね」
子離れの時もそう遠くないってことなんだろうなとPDAに文字を打ちながら、セルティは肩を下げる。
まるで、ため息をついているようだった。
実際、見つめる目なんてものは存在しないが、帝人が歩いていった方を眺めて寂しそうにしている。
「まぁ僕には、」
と新羅が呟く。
それはとてもとても小さな声で、横にいるセルティには伝わっていないようだった。


「まぁ僕には、爪先で立つ子供にも見えなくないけどね」
背伸びしなくたって、君は君のままで十分可愛いのにな。
そう呟く新羅も何故か、どこか寂しげな顔をしていた。


END

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