2012/10/16 08:25

 彼女はとてもわがままな少女だったと、思う。気が強くて、口が達者で、見栄っ張りで、そしてとても臆病な少女だった。

 僕らの出会いは高校の入学式、たまたま同じ教室で彼女は僕の隣の席に座っていた。彼女はずっと窓の外を見ていて、先生の入学式での注意事項なんてまるで聞こえていないかのような素振りをしていた。僕らの学校なんてそんな奴ばっかりだったから、先生も特に気にしていない様子。僕もぼんやり外を眺めるふりをして、机の上でうずくまる腕の影から彼女のことを見つめていた。
 こんな事を言ったらまた彼女に怒られてしまうが彼女はなんというか、見かけ詐欺のような少女で、はじめて彼女を見たときの僕の感想は「小さくて目が大きくて、まるで小動物」だったのだが実際の彼女は小動物のような可愛らしい雰囲気ではなく獰猛なライオンのような百獣の王のオーラを隠し持っていた。
 入学式から数日後、牙を隠した彼女の可憐さに惹かれて僕はついに話しかけることとなるのだが、後に後悔してしまう。何故もっと人をみる目を養っていなかったのかと。

 ピリリリリリリリリリ。
「……はい、はい、うん、えっ?」
 そして今日も彼女の傍若無人に振り回されて、深夜のコンビニへと呼び出されてしまう。
 携帯の時刻は、とっくに日付変更を告げている。明日も朝から仕事があるのに何てこった。眠さで重い体を気合いで起き上がらせて、寝巻きのスウェットを着替え、携帯と鍵と念のため財布の三つを掴み、愛車に股がり、原付で十五分ほどかかる駅前のコンビニへと向かった。ちなみにそこは彼女の家から一番近いコンビニで、僕は定期的にそこに深夜出動するので不本意ながらも馴染みある場所であった。
「何してるの、こんな時間に。」
「遅い。」
「……何してるの、本当に。」
「ジャンプ読んでた。」
「帰りなさいよ、夜遅いんだから。」
 彼女は少し濡れた桜ドーナツ色(と、彼女の友人が言っていた)の髪の毛を頭の一番上でまとめて、ショートパンツにパーカーというなんともラフな格好であった。シャワーの後なのだろう。化粧はしていなかったのだが、そもそも彼女にはそんなもの必要には感じられない。
 こんな夜遅くに女の子が一人で外出なんて物騒にもほどがある。店員がレジの方からチラチラと彼女の事を盗み見しているのにも、彼女のすぐ近くにいたお兄さんが僕の登場により小さく舌打ちしたのにも、全く気付いていない彼女はもう少し自分の容姿のことを自覚して欲しい。僕がそんなことを言う度彼女は、「ハンッ」と下らないといった感じに笑うけれど彼女に好意を向けているのは決して僕だけではないのだから。
「桐谷君こそ、掘られないように気を付けるのよ。」
「……本当に可愛くねぇな、こいつ。」
「アン?」
「何でもないです。すみません。」
 背の低い彼女は下から僕の首を掴み、呼吸器官を握りしめるかのような威嚇をした。こんな小さな掌でどうしてこんなにも力強いのかという絞め技に、僕の咽が恐怖で上下する。
 目力が有り余るほどある彼女が僅かに目を細め、威圧感にて抵抗を許してくれない。いつだって僕らの関係は彼女が上であった。

「で、こんな時間に呼び出された」

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