2011/10/22 04:49

それに気がついたのは、つい最近のことだった。
用事で地方に行ったときにみた、田舎の海を思い出す。キラキラと水面を光らせる太陽と、遠く彼方の水平線まで続く広い海。
海無し県で生まれ育った僕はそのせいか海に憧れを抱いていて、小さい頃は夢に見ていたこともあった。
夢の中で憧れの海は、とても綺麗で、そこでは色んなドラマが生まれたりもするという。そんなことを話した幼馴染の友人には「テレビの見すぎ」と笑われたりもしたけれど、小さい頃の僕にとって海はそれくらい幻想的なものだったのだ。

でも、あれから少しは大きくなった僕が、夢見ていた海を目前にして思ったことは、どうしてだか何もない。
ただ広がる海をみて、ぼんやり小波の音を聞き、潮風を命一杯吸い込んで、僕が思ったことは本当に、何もなかった。
海をみている自分と、その自分の目の前に広がる海。ただそれだけ。

「帝人先輩、これは差し入れです。」
「……ありがとう。」

じゃりじゃりと砂を踏む、その音と青葉君の声に気が付いて振り返ると、彼の手の中には缶が二つ、ミルクココアとコーンポタージュが握られていた。その両方を差し出され、「うん?」と首を傾げる。どっちが僕のなんだろうか。

「えっと。」
「帝人先輩はどっちがいいですか?こっちとこっち。」
「あぁ、えっと。」

ココアもコーンポタージュも、甘くて僕は好きだけど、どちらかと聞かれれば返答に困ってしまう。両方好きなもののどちらかを選べというう選択は結構困るものだった。

「どっちでもいい。」
「どっちでも?」
「うん。」
「では、帝人先輩は右と左だったらどっちがいいですか?」
「右。」
「では、コーンポタージュで。」
「ありがとう。……でも、青葉君、ココア苦手だったよね?」
「いいんですよ、どうせコーンポタージュもそこまで好きじゃないですから。」
「じゃあ、何でこの二つ買ってきたの?自分が好きなの買ってくればよかったのに。」
「では帝人先輩は、ココアとコーンポタージュどっちが好きですか?」
「……どっちもだけど。」
「だったらいいんです。」
「よく分からないよ。」
「そうですか?」
「うん。」


海を見つめる帝人と青葉の描写。なんか海の描写を考えなくっちゃな。

「あの男、どうするつもりなんですか?」
「あの男?」
「ここままだと死にますよ。」
「物騒な言い方。まぁでも、もしかしたら死ぬかもね。」
「救済します?」
「どうしようかねぇ。」
「帝人先輩が救うというなら、僕はそれに従いますけど。」
「決断するのは僕ってことか。」
「救う、見捨てる。どっちがいいですか?」
「……どっちでもいい。青葉君の好きにしていいよ。」
「では、帝人先輩は生きたいですか?死にたいですか?」
「できれば長生きしたいよね。」
「では救済の方で。後は僕らだけで片付けるんで、先輩はもう少しここにいて下さい。」
「うん、いってらっしゃい。」

「先輩。」
「うん?」
「『どっちでもいい』は、『どうでもいい』と同義語ですよ。」
「…………それが?」
「いえ、それだけ言っておこうかなと。」
「そう。海をただ見ているのも飽きてくるから、早く帰ってきてね。」
「えぇ。では。」

現場に戻っていく青葉君。
帝人君は臨也さんお使いで地方にやってきている。青葉君たちブルスクはその付き添い。

どっちでもいいはどうでもいいと同じ意味。
そんな言葉を残していった青葉君は、きっともう気が付いているのかもしれない。
僕の中の『それ』に。


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