2011/07/10 11:02

「辛いことを一人でやろうとするな、お前と俺は双子だろ。」

言うならそれは、それはハッピー。

「痛いことも、苦しいことも、辛いことも、二人で分け合って半分ずつ。」

繰り返しの三十九秒、廻り廻っていたら、見えた、それはラッキー?

「お前が鍵を開けるなら、俺も一緒に開ける。それを開けて俺が人間じゃなくなっても、俺も一緒に開けたから、お前だけが悪くないんだ。」

なんだか不思議と報われないなあ。


ただ音を重ねたって、終わりも始まりもやっては来ないな。
つまりつまり意味はないよ!
そうだね今すぐ飛び降りよう。





神隠しの鍵(隠しているのは倶利加羅、燐が秘めている悪魔の炎の欠片)を藤本神父から受け継いだ雪男。彼は燐がごくごく普通の人間として幸せになることを望んでいるので、何があっても絶対にこの鍵を使用しないと密かに決心していた。
そのために自分は祓魔師となり、影ながら悪魔の影響から燐を守りぬき、悪魔の覚醒を阻止すると父親(藤本獅郎)の墓前に誓う。

しかし、そんな彼の誓いを反するように燐の中の悪魔の炎は成長し、燃え上がり、ついには虚無界にいる魔神にも燐の存在を気付かれしまう。
魔神の使いを名乗る男の襲撃に会う南十字男子修道院。自分と兄が生まれ育った場所、今は亡き父親との思い出の場所、雪男の大切な場所が見るも無残な光景に。

崩壊寸前の教会、崩れ落ちた十字架、これでは神も信仰もありゃしない。祭壇の影に身を潜め、魔神の使いの隙を狙っている雪男の脳裏に掠めるのは父親、藤本獅郎が残した言葉。
「もし、燐の炎が倶利加羅では抑え切れなくなった時、燐の炎を隠し切れなくなった時、迷わずこの鍵を使って倶利加羅の封印を解け」「お前がどんなに必死に願ってもな、燐の炎は、燐は成長し、悪魔として目覚める日がやって来るんだよ」「自分が何者なのか、それも知らずしてアイツ(燐)が本物の幸せになれるとは俺は思っていない」「そりゃ自分が悪魔であると知り、戸惑わないわけがないだろう。自分の生い立ちに絶望し、悲しみ、母親や俺やお前や自分を呪うかもしれない」「でもな、燐は、燐なら、自分が何者なのかを知ったとしてもきっと前に進むことを選ぶだろう」「お前の兄貴はそういう奴だ、お前だってそれは知ってるだろう?」「アイツの炎が綺麗な青に燃え上がった時、お前は燐を封印から自由にしてやれ」「神隠しの鍵、これをお前に預けた意味を勘違いするな?」「お前はこれを、いつか使う時が必ず来る」「頼んだぞ、雪男」
あの時、父親に強く握られた右手が震える。硝煙の匂いが微かにするその手の平の上には、繊細な細工がされた小さな鍵が一つ。その鍵を見つめる彼の瞳は真っ黒で、己の中でどろどろと渦巻く感情で濁っていた。

この鍵を手放すのは、自分が死ぬ時だとずっと思っていた。でも現実は、この鍵を手放すことは兄の封印を解き、悪魔としての覚醒を意味していた。
雪男はきつくきつく鍵を握りしめる。プツッと音に気が付けば、力を込めすぎていた指から血が流れ、赤色がゆらゆらと揺れているように見えた。ゆらゆら、ゆらゆら、本当は赤いそれが流れ出ているのは指だけでなく、満身創痍、体中が痛覚で悲鳴をあげているのだが、「赤い血なんて、青い炎を見るよりは全然ましだ」と雪男は小さく笑った。

燐の炎を初めてみた時、ただ純粋に「綺麗だ」と思った。雪男はつい数分前のことを思い出す。
儚い炎は空よりも青く澄んでいて、それでいて強い煌々の温かさはまるで彼のようだ。例えその炎の色合いの意味が、この世界では忌み嫌われることだとしても、優しく強い彼に青い炎はとても似合っていた。
「俺が悪魔だと知って、お前は俺のことが嫌いになったのか」
燐は雪男にそう言った。
雪男が燐の炎をみて、ぽろりと、涙を流したからだ。
何故あの時、そんなことはないと即答できなかったのか。彼(雪男)が彼(燐)を嫌うことなんて、あるはずがないのに。いつか悪魔として覚醒する彼(燐)を、彼(燐)のその体を包み込む青い炎を、嫌いだと思ったことなど、嫌いだと思いはしなかったはずなのに。

では、あの涙は?





「…………兄さんには、普通の幸せの中で生きていて欲しかったんだ。」

どうしてそれが、それがハッピー。

「この鍵を開いて、炎の封印を自由にするのが、兄さんの幸せに繋がるとでもいうのか。」

虚ろ目の午前四時、迷い迷って、辿り着いたそこがハッピー?

「悪魔として生きていくだなんて、茨の道だと分かりきったことじゃないか。こんなに痛く、辛く、苦しい道の先にある幸せだなんて僕は兄さんに渡したくないよ……父さん。」

こんなに疲れているのになあ。


どうしてこれが、これがハッピー。
終わりも見えない道に寝そべって、ぐらりぐらり崩れちゃうわ。
どうやらアンタの姿が邪魔で。








「頼んだぞ、雪男。」

鍵を握る右手が、熱い、熱い、まるで燃えているかのように熱い。
見えない何か(炎)が「早く出せ」と燻っているみたいだ。

鍵を通して感じるこの鼓動が、彼(燐)の炎の音なのか、彼(燐)の心臓の音なのか、彼(燐)が生きている証しの音なのか。
もしそうならば、熱く、強い、なんて心地好い音だろう。


祭壇の鍵穴に、そっと震える右手を近付けて……、

「ごめんね、兄さん」










「…………謝るくらいなら、一人で開けようとすんなよな。」
「え?」

画面の向こう、落ちていった。
逆さまのガール、おとなのせかい。
それは?


END

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