2011/07/10 01:49

 煙草の香りを纏った、あなたが嫌いでした。背伸びしても届かないほど背の高い、あなが嫌いでした。私の知らない世界で息を吸う、あなたが嫌いでした。いつか私のすぐ隣から離れてしまうと言った、あなたが嫌いでした。
 私よりもずっとずっと大人な、年上なあなたが嫌いでした。
 そんなあなたに生まれて初めて恋をした、自分自身が一番……大っ嫌いでした。


 あなたに心惹かれたのはたぶん、あの頃の私がまだ今よりももっと子供で世間知らずでわがままで気持ちが悪いくらい傲慢で、そんな自分とは正反対なあなたの落ち着いた大人な部分に憧れていたからでしょう。
 あなたの隣にいれば自分も大人に近付けた気持ちになれる、本当に恥ずかしい子供の考えに取り付かれていたのです。
 そんなことしたって所詮子供は子供、大人な気分を味わうだなんておかしな話。


 もしも願いが叶うなら、あなたになんか出会いたくなかった。
 そうすればあともう少しだけ、私は田舎くさいくそガキのままでいれたのに。そんな自分を恥ずかしいと思わずにいれたのに。
 あなたが吸っていた煙草の香りを思い出す度にむず痒い気分になってしまうのは、思い出したくない記憶も一緒に思い出してしまうから。これはもはや一種のトラウマ、あなたが私にかけた呪いです。









「帝人と初めて会ったのは、お前がまだ高校に入りたての頃だったよな。あの時のお前は純粋で可愛かった。」
「帝人って男みたいな名前で呼ぶの止めて下さいって言いましたよね、私。」
「今じゃ自分の名前を恥ずかしいと思うようになるなんて、そういうお年頃か。」
「思春期ですから。」
「思春期になるとそんな危なっかしい靴を履いて歩くようになるのか?」
「ヒールくらいみんな履きますよ。」
「初めて会った時はまだスニーカーを履いていたのに、子供の成長は寂しいな。」
「私はあなたの娘か、このくそ親父。」
「帝人と家族になれるなら、お前の父親になるってのもいいな。」
「年齢差的に父親ではなくお兄さんでしょう。」
「じゃ、今からお前は俺の実妹な。」
「妹に卑猥なことしちゃいけないって知ってますか?お巡りさんを呼びますよ。」
「…………。」



 えらく口が達者になったところも、ヒールを履いたせいで縮んでしまった身長差も、目のやり場に困るミニスカートも、化粧やらアクセサリーやら気を使うようになった洒落っ気も、下品な冗談を軽々と躱すようになった仕草も、


「……ホント、可愛くねぇ。」
「何か言いましたか。」
「いいえ。」







でも、そんな君に、今も夢中!



END

―――――――――――――
静雄さん(26才ぐらい)×女体化帝人ちゃん(19才ぐらい)、だったはずでした。

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