2011/04/09 03:09

 パチパチと火花を散らす煌煌の橙色。その炎の中で呆気なくただの黒墨となっていく知識の宝庫(教科書)達を正一は、冷めた目線、寂寞な面持ちで見据えていた。
 いとも簡単に燃えてゆく。こんなペラペラな紙の束に今までの自分は、何を学んでいたのだろう。何を縛られていたのだろう。何を望んでいたのだろう。世界の天才達が見出だした数学公式はただの数字と文字からなる謎解きでしかなく、世界の偉人達が生み出した名作はただの文章(もっというなら文字のまとまり)でしかない。英語やドイツ語にいたっては、日本人である自分にとっては宇宙語とたいして変わらないし。地理は一々学ばなくとも理解できる、歴史は過去の他人の思い出でしかない。唯一実用的に思える簿記情報処理だって、将来自分が使う可能性はないんだろう。いらない、いらない、全部いらないな。
 正一は真っ黒な紙屑でいっぱいになった焼却炉の重たい扉を閉じ、その傍らに腰を落とした。何もかもなくしてしまった自分の両手に息を吹き込んで、白い空気が冷たく悴んだ体温を温める。見上げると高く広い青空が無言の威圧的を放っているようで、その空の真ん中に焼却炉から灰色の煙が上る景色はなんとも無様だった。親戚のお婆さんの葬式の時にも同じ灰色の煙と青い空を見たけれど、あの時とは真逆な、やきもきとしてどうにも憂鬱な気分になった。
 青臭い、いい子悪い子、鬱陶しい、エゴイスト、追い打ちをかけるかのように焼却炉の中からは炎の音が正一の聴覚を刺激する。
 なるほど、そうか。喉の奥の方から込み上げてくる笑いは、まるでこの状況を楽しんでいるようなそれにプラス半分、嘲笑いも含まれていた。

「これが、かの有名な中二病か」

 盗んだバイクで走り出し、深夜の校舎で窓ガラスを割って回る。そんなことを歌っていた人が昔、いた気がするようなしないような。基本行動派ではない正一はそんな体力を大幅に消耗するようなことをやろうとは思わないが、病気の自覚を持った今、とりあえず鳴りはじめた本鈴を無視して授業をサボろうぐらいには思った。

『勉強なんかしなくても生きて行ける?……まあ、そうだろうね。中学高校ぐらいの授業の内容なんて正直、将来では使わないから』

 白い髪の毛をツンツンと立て、怪しい笑みを浮かべる男の言葉をふと思い出す。どっかの世界で出会った、どこか見覚えのある不思議な男だった。

『でもね、たくさん勉強をして、たくさん知識を得て、たくさん経験を積むと、君の視野が広がることだってあるんだよ。視野こそ広がれば君が行ける場所だって増えるし、行けるようになった場所で新しく出会える人が、この世界にはたくさん居る。頭の良い君には、たくさんの人に出会ってたくさんの人に愛されてもらいたいと僕は思うけどな』

『ね、君を愛してくれる世界にいってみたいと思わない?』

『そのための勉強と思えば、案外楽しいでしょう?』








ここまで書いて、以下は気に入らなかったので全部削除しました^p^
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