2011/03/27 03:37

※GUMIが歌う「十面相」という曲のパロディです。
※帝人君の四番目の人格、折原臨也。
※静帝前提の静臨です。
※小学生の頃、帝人君は幼馴染みで年上の静雄さんに呆気なくフラれだいぶ傷付く。それがきっかけで多重人格のくせがつくようになる。
※「死ね」などの暴言が取り出すので、不快に思う方は閲覧をオススメできません。











 声は、声は確かに彼だった。

「俺はシズちゃんが好きだよ」

 初めて出会った頃とくらべると変声期を過ぎたその声は幾分低くなった感じはあるが、本質である優しい印象はそのまま。

「でもね、それは彼がシズちゃんの事を好きだから俺は仕方なく好きになってあげているだけだから。じゃなきゃ誰がシズちゃんみたいな単細胞に好意を抱くもんか、俺の愛の無駄遣いにもほどがある」

 自分の目の前にいる少年は、確かに自分が昔から知っている彼のはずなのに、どこか違う、何かが違う。静雄は自分の目がおかしくなってしまったのではないかと疑ってしまった。
 目を擦り、目を凝らし、その童顔な顔には似つかわしくない妖艶な笑みをニヤッと浮かべる彼に目を瞠る。
 二度見、三度見、何度見たって目の前の人物は静雄が知っている彼、竜ヶ峰帝人とは違っていた。

「その間抜けな顔、腹立つから止めろよ」

 無意識に唾を飲み込んで、上下する喉。彼から放たれる違和感ばかりが静雄の肌に突き刺さり、疑問符、動揺、それから「お前どうしたんだ、何かあったのか」という意味を孕んだ不安感。そんな静雄の反応に彼は眉をしかめ、どうやら苛立っているようだった。

「み、帝人……」
「だから俺は帝人君じゃないって言ってんじゃん、何で分かんねぇかな、馬鹿なの?シズちゃん馬鹿だよな」

 違う、アイツはこんな風に人の事を貶すような言葉は使わないし、アイツはこんな嫌味な顔なんかしない。
 なら、コイツは一体誰なんだ。

「さっきも言った気がするけど、俺の名前は折原臨也。帝人君の四番目の人格。俺はお前を『シズちゃん』って呼ぶけど、シズちゃんは俺の事を『イザちゃん』なんて呼ぶなよ?もし呼んだりしたらその男前な顔を、半分爛れた酷い面にしてやるからな」

 遠慮がちな素振り、人懐っこい眼差し、溢れんばかりの笑顔、それが静雄のイメージする彼。しかし今の彼はその短い前髪をかき上げ、そのまま自然な動きで首の骨を鳴らした。ゴキッと鈍い音、挑発的な眼差し、口角を吊り上げた笑み、いつもの静雄にそんな態度を取れば間違いなく血の海をみる事になるだろう。しかし、今回だけは違っていた。
 相手が相手だけに静雄は、華麗な暴力を繰り出すその腕をだらりと垂らし、代わりに頭をフル回転させて臨也と名乗った彼の言葉に考えを馳せていた。
 さっき臨也は自分を彼の四番目の人格だと言った。四番目の人格とは何だ、コイツは彼ではないのか、彼の中に彼以外の人格があるとでもいうのか。
 そんな映画やドラマに出てくるような出来事が、静雄の目の前で繰り広げられている。信じられないと思う静雄だったが、と同時に納得もしていた。それが本当なら今のこのおかしな状況を全て説明付ける事ができる。
 彼、竜ヶ峰帝人は多重人格で、今自分の目の前にいる帝人は帝人本人だけど帝人ではなくて、名前を折原臨也といい、臨也は帝人とはまったく違う(むしろ真逆な)性格をしていて、だから彼は自分に敵意剥き出しな態度を取っている。目の前にいる彼は、自分が昔から知っている帝人ではない。
 多重人格。静雄一人が納得するには十分に信憑性の高い考え方であった。

「帝人は何で、何時からそんな風になってしまったんだ。理由とか動機とか……」
「何で? 何時から? へぇ、シズちゃんがそれ聞いちゃうんだ」
「?」
「帝人君がこんな風に多重人格になってしまったのは全部、シズちゃん、お前のせいなのにな」

 「えっ」と思わず声を漏らした静雄は、多重人格の事実を知った時とは別の驚きで目を丸くした。

「俺が?」
「シズちゃん、大事な事忘れてるんじゃないの? そもそもシズちゃんと帝人君が知り合ったきっかけは何だったけ? まさか覚えてないなんて事、あるはずないよねえ」
「…………あっ」
「思い出した? なら話は早いよね」

 思え返せば十年ほど前のある夕暮れの校庭、当時小学生だった静雄は同じ小学生だった頃の帝人と出会っていた。今となっては幼心故の過ち、辛い思い出、帝人の心に大きな傷を負わせてしまった出来事、静雄にとっても忘れていたかった記憶であった。思わず狼狽する静雄とは逆に、彼は可笑しそうに楽しそうにクスクスと笑う。可笑しそうに楽しそうに、しかしその細められた瞳は研ぎ澄まされた敵意や憎悪に光っていた。ぞくりと悪寒が走る背中、静雄は彼のその二つの瞳から目を逸らせずになってしまう。

「俺はシズちゃんが好きだよ」

 いつの間にかその片手にはおもちゃみたいに小さなナイフが、その切削部をちらつかせながら握られていた。

「でも、俺は帝人君を誰よりも一番愛しているんだ」

 「愛」という言葉の部分で彼の笑みに優しげな色が添えられる。殺意(敵意と憎悪)と愛情が入り混じった瞳は、静雄には狂気にも似た危なっかしさを感じさせた。
 きっと自分はこの直後、あのナイフをこの腹部か胸部、もしかしたらこの体全身に突き刺されてしまうのだろう。疼いている刀身を冷静に見据えるこの両目で、上手く躱す、そんなことなど出来るのだろうか。やたらと激しく聞こえる心臓の音。
 人通りの少なく薄暗い路地裏、真紅に染まる自分とその返り血を浴びる彼。そんな事を想像した静雄は苦々しくその顔を歪めた。

「俺と帝人君は一心同体たがら、帝人君が愛するシズちゃんを俺は愛す。シズちゃんを愛する事が最終的に帝人君に繋がるのなら、俺はシズちゃんに無償の愛を捧げよう。帝人君がシズちゃんにそうするように、俺が帝人君にそうするように。俺から帝人君への愛が一番だけど、俺からシズちゃんへの愛もなかなかなもんだと思うよ。だって俺と帝人君とシズちゃんは素敵な三角関係だからね。……でもね、でもさ、シズちゃんはどうなの?シズちゃんは帝人君を愛しているの?帝人君を傷付けたりなんかしてない?俺はシズちゃんが大好きだけどさ、でもやっぱり帝人君が一番だから、シズちゃんが帝人君を傷付けているなら残念だけど俺はシズちゃんを殺さなきゃいけなくなるんだよね。シズちゃんはさ、シズちゃんはね、帝人君を絶対に傷付けちゃいけないの。あの日みたいに傷付けちゃいけない。あの日、分かるよね、ねぇ、シズちゃん、二度と帝人君を『嫌い』だなんて拒絶して傷付けたりしたら、ダメ、なんだよ。それ位帝人君にとってシズちゃんは大切な存在なんだから。羨ましいね、憎たらしいね、殺してしまいたいね、消えてしまえばいいのにね、死ねば、いいのにね、ね、死んでよ、死ねよシズちゃーん」

 その瞳がぐにゃりと歪む。

「好き好き、大好き、愛してる」

 狂気に歪むその言葉、声は、声は確かに彼だった。彼だったのだ。
 静雄は自分に向いた刃先が少しずつ生暖かくなるのを、彼の声を耳にしながら感じ取っていた。痛覚はとうに頭のてっぺんまで上りつめ、不思議な痺れが全身を侵していく。緊張状態の筋肉が固まり、上手く動かせない両手で彼の小さな背中を抱きしめると、静雄は「ごめん」と小さな声で呟いた。

「俺は、もう、お前を、拒絶したりなんか、しない」

 身振り素振り雰囲気、何がどう違っても、当たり前の事だが体はやはり彼のままなのだ。静雄は瞼を閉じて彼の返事を待つ。
 彼の返事は、

「…………うれしい」

 帝人本人の言葉なのか、それとも四番目の人格である臨也の言葉なのか。
 答えは彼(ら)の心理の不思議の中へと葬られることとなった。











(一番目/竜ヶ峰帝人)
(二番目/園原杏里)
(三番目/紀田正臣)
四番目/折原臨也
(六番目/????)

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