2011/02/15 01:00

※帝人君が女体化。





恋人達のための大切な日。一年一度のバレンタイン。とくに今年は雪が舞い降る特別な、ホワイトバレンタインであった。手を繋ぎ合う二人の足元をそっと優しく包み込む。

そんな華やかに飾られた街中で黒髪の男女が、ビニール傘越しに空ばかり見上げながら歩いていた。時々すれ違う人にぶつかりそうになり、危険極まりない歩き方だ。
周りの迷惑そうな目線など気にしていないのか、それでも二人は目線を下げずに傘をクルクルと回して積もった雪を払い落として歩いていた。雪で邪魔されていた二人の視界にまた、ビルに囲まれた空が顔を出す。
ふと右側を歩いていた女、竜ヶ峰帝人がゆったりとした言葉で口を開く。「ねぇ、臨也さん」と。臨也と呼ばれた男は、帝人の顔をみることなく「んー?」と返事をする。心ここにあらず、そんな空返事であった。
話をする時ぐらい、こっちを見ろよ。人と話をする時は、その人の目を見ながら会話しなくちゃいけないって幼稚園の先生に習わなかったのか。むしろ貴方に幼稚園時代などあったのか。帝人は失礼な事を考えながら、隣の男を横目で見る。
美形の褒め言葉がよく似合う横顔、その目線は上を向いている。吹いた風に揺れるファー、そしてその先にチラチラと見える白い咽。いつも得体のしれない笑みを浮かべている男が、今は無防備にもそのスラリとした咽をさらけ出している。撫でてその喉仏に触れ、潰してしまうほど押してしまいたい。
そしたら男はどんな反応をするだろう。突然の息苦しさに驚いた顔をするか、嫌そうに細めた目で帝人に「やめて欲しいんだけど」というか。おそらくきっと、いや絶対に、後者なのだろう。そう帝人は知っていたが、もしも、もしもこの臨也さんが驚くといった人間らしい反応をしたら、それはそれで見物だ。一人帝人はクスッと笑いを漏らす。彼女が笑うと自身の長い髪が、コートの肩の上で小さく揺れた。

「なに笑ってるの、帝人君」
「いえ……あっ、傘に積もった雪が溶けはじめると、焼きただれた皮膚にも見えるなと思って」
「そんな事考えながら笑う恋人なんて可愛いとは思えないよ、俺は」
「失礼ですね、僕は今日のためにわざわざ一生懸命オシャレしたというのに。あれ、もしかして臨也さんはニーハイお嫌いでした?」
「いや、ナイス絶対領域」
「なら良かった」

不審そうな顔からげんなりとした顔、それからキリッとした顔になった男は、今は帝人(のニーハイ)に向けて親指を立てていた。

「ニーハイはいいけどさ、もっと可愛げのあること話してよ。今日は何の日だと思ってるの」
「えっ、今日は私のフォロワーさんの誕生日ですが何か。可愛げのある話、ではまず一体どんなことが貴方にとって『可愛い』と思える事なのかという話し合いから始めないといけませんね」
「君に期待した俺が馬鹿だったよ」
「失笑、僕に何を期待していたというんですか」

鼻で笑うとはまさにこの事、帝人の冷めた態度に男は肩を落とし、ため息をついた。ひどい、ひどいよねとぶつぶつ呟いているその男と帝人の間に、甘い雰囲気などなかった。が、「ふむ」と頷いた彼女が自分の傘を畳み、男の傘の中へと入り込む。所謂相合い傘である恋人のその突然の行動に、男は珍しく「えっ、えっ」と戸惑いをあらわにしていた。

「バレンタインの今日。空から降る雪はまるで、くっつきたくても恥ずかしさでそれができない恋人達のために『寒いから』という口実を作ってくれているようで、素敵ですね。臨也さん」
「えっ、あの、」
「どうでした?とっても可愛げのある話だったでしょう?」

にこりと見上げる帝人は、ぎゅっと男の腕に抱き着く。服越しに感じる体温に「あったかいですねぇ」とすりつくその様子は、猫のあれを思い浮かべさせる。

「帝人君、まさかのデレ期到来!?」
「違います、雪が積もって重たくなった傘を自分で持ちたくなかっただけです」
「あはっ、帝人君のツンデレめ」
「しつこい、ストーカーで訴えますよ」
「それは止めて、勝訴する自信がまったくないから」
「でしょうね」




ホワイト、ホワイト、バレンタイン。
寄り添う二人は道に足跡を残しながら、駅の方へと姿を消した。


END

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