2011/02/16 03:36

自分に都合の良い相手を求めることのなにが悪い、そんな人を恋人にしたいと思うのに何故そんなに否定されなきゃいけない。そんな人を側に置きたいと思うのは最低な事ですか?なら、私にどうしろと。誰かのぬくもりがないと生きていけない彼をどうしろと。

「認めない、だってそんな、そんなのって、ありえないことだろう?」

ほらまたそうやって拒絶する。
私の大切な大切な友人よ、そんな目で私を見ないで。私のことを大切に思って心配しているのは分かっているけれど、どうしようもなく腹が立って、その汚いものを見るような目をする顔を張り飛ばしたくなるから。
振り上げそうになった自分の腕を抱きしめる、以前より大分細くなったのを感じて改めて「あぁ、痩せたんだな」と実感した。私の食生活を管理していた彼は別に、私にご飯を与えてくれなかったわけではない。むしろいつも十分過ぎるくらいの量を毎回用意してくれたし、味や栄養面にも気を配られていた(と、思う)。ただ、私が食べなかっただけ。あまり食を受け入れない私を彼がみて、困ったような顔をするのが楽しかったから。お腹と背中がくっつきそうなほど空腹にならない限り、彼が差し出す料理を口にしなかった。それでも夜私が寝ている間に彼が食べ物を無理矢理口に詰め込んでくれていたおかげで、今こうやって私は生きていられる。
彼の監禁から解放された今でも、私は当たり前のように生きている。

「それがありえた話だからこそ、私は今ここにいるんだから、正臣が認めても認めなくても私には関係ない」
「そんな、ずっとこっちはお前のこと心配していたんだぞ。俺だけじゃない、杏里だって」
「え、」
「…………」

眼鏡のレンズのその下の色濃く黒ずんだ隈、彼女がここのところまったく安眠できていない事など容易に分かる。何で彼女が私なんかのために、そんな……。可愛い顔立ちなはずの彼女、黒く真っ直ぐで綺麗なはずの髪、いつもきちんと着込まれているはずの服装、疲労からかストレスからか彼女はひどく荒れていた。そうさせたのは自分なのだと思うと、悲しくなるほど申し訳ない気持ちになった。
思わず彼女に触れたくなって一歩近付き腕を伸ばす、しかし一歩後退りされ顔を背けられ私の伸ばした手は拒絶された。目が合うとすぐに逸らされる、話かけても答えてくれない。なるほど、どうやら彼女は私に対して怒っているようだ。それも私の事を完全無視するほどに。
分からない、分からないな、何故彼女がこんなにも怒る。私がたった一ヶ月の間、あの男に監禁されていただけじゃないか。それも同意付きで。それのどこに怒りを感じているのか全く分からないけれど、このまま彼女に無視し続けられるのは少し嫌だな。だってそんなの悲しすぎる。

「園原さ、ん?」
「…………」
「怒ってるんだよね、何で怒ってるの?」
「………………」
「教えて、くれないんだね。うん、そっか、でも話を聞いてくれる?それで出来たら返事もして欲しい」

眉を顰めた彼女は、それでも「いい、ですよ」と答えてくれた。やはり、うん、彼女の声は可愛い。今日はその可愛い声の中に怒りも孕んでいるけれど、彼女と同性な私でもときめいてしまう、そんな魅力的な声だった。
正臣の爽やかで活気ある声も大好きだったが、私は彼女の声にも好意を抱いている。それは、あの監禁生活を体験した今でも変わらない。私の大切な大切な、いうなら私自身の命よりも大切な友人達。変わっていない、はずだ。

「まず最初に、正臣と園原さんは二人とも私にとってとても大切な友人だ」
「知ってる」
「……知ってます」
「うん、それじゃ、それを踏まえた上で私の話を聞いてね。二人になんの連絡もなしに、突然消えたというか失踪してしまったこと。それから二人に心配をかけてしまったこと。本当に申し訳ないと思ってる」
「あぁ、そりゃ当たり前だ」
「はい」
「……でも、そうしなきゃいけない理由とそうすべき理由があったのは理解して欲しい」
「……」
「理由、」
「そう理由。あの時の私は、あの人の所に二人には黙って行かなきゃいけなかったし、一刻も早くあの人に会うべきだった」
「その結果が監禁か。アイツと何があったのかは知らないけど、普通会ったばかりの女を監禁するか?普通はしない、アイツは異常だよ」
「うん、あの人が異常だって事は、きっと二人より私の方が理解してる」
「それでもお前はほいほいアイツの所に行き、そして案の定監禁っていう異常事態に巻き込まれた。しかも解放された今もお前は、アイツを警察に通報しようとしている俺らを止め、アイツを庇おうとしている。アイツが異常なら、お前は馬鹿だ。超絶バカヤローだ」
「野郎じゃないよ、女の子だよ」
「んなこと今はどうだっていいんだよ、この馬鹿帝人」
「……ひどいな」

「馬鹿バカばか、この野郎」と繰り返す正臣にも謝ると、「笑いながらいうんじゃねぇ」と額を指で弾かれた。所謂デコピン、地味な攻撃ではあったけど力一杯指をしならせれば結構な痛みが頭蓋骨にダイレクトに響く。弾かれた額を撫でる、うむ、微かに熱を持ちはじめていた(ような気がする)。今回ばかりは正臣も相当怒っているようで、真っ赤になっているだろう自分の額に遠慮のなさを感じた。
親友二人ともを敵に回してしまった今回、どうも私にとっては不利な喧嘩のようで、それでもどうにか今二人を説得しなければ私はきっと後悔する。何故あの時の自分はもっと上手く立ち回れなかったのか、いっそあの時の自分を殺してしまいたいと思う。そんな後悔。

「二人の事を誰よりも大切だと思っていた、いや、今でも大切なのは変わらない」
「なら、」
「でも、」
「……」
「今はその誰よりも大切な人の中に、二人以外の人が一人増えたの。その人と二人、どちらの方が大事って聞かれても、今の私には選べない」
「……もし、今あいつが」
「うん」
「今あいつがお前にまた会いたいだなんて言いだしたら」
「ごめん、私は彼に迷う事なく会いに行く」
「帝人さんは、―――――――」



自分に都合の良い相手を求めることのなにが悪い、そんな人を恋人にしたいと思うのに何故そんなに否定されなきゃいけない。そんな人を側に置きたいと思うのは最低な事ですか?なら、私にどうしろと。誰かのぬくもりがないと生きていけない彼をどうしろと。

人類全てを愛しているだなんて、このほら吹き野郎が。愛の欠落した貴方を、私が愛してあげましょう。

END

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