2011/02/09 03:55

サーカスは相対性理論とは良く言ったものだ、いくら脳科学者とはいえそんな難しい言葉を無理に使おうとしなくてもいいのに。楽しすぎて時間が経つのが早く感じる、そりゃ遊びで来ていたらそうかも知れないけど、こっちは仕事で来てるのだから楽しくもなんともない。早く仕事を終わらせようと、ふざけたメイクをしたそのピエロの腹を踏み付ける。相手は痛みで震えていたが、こちらもこれが仕事なのだ。手加減はしてやれない、いや、してやらない。おどけた仮面が恐怖に歪むのは見ていて楽しかったけど、涙の化粧が涙で掠れるとは胸糞悪い。ピエロなのだから最後まで笑って消えれば良いのに。それにピエロに化けるだなんて子供達の夢を壊すような事を、なんと罪深き行為。そんな愚かな道化には"あちら"に帰っていただかないと。

「さようなら、ピエロさん。その醜い顔ごと撃ち抜いてあげるから早く魔界に帰りなよ。それにうちの兄は重度の道化恐怖症でしてね、彼を怖がらせたら可哀相でしょう?」

ガウンと音が響いた後には銃口から硝煙が立ち込め、気持ち悪いと咳がむせ返る。特に今日の仕事は気分が悪い、早く家に帰って眠ってしまいたい。眼鏡のブリッジを上げようと頬に触れたその手、そこにすら匂いは移っていることに気がついてさらに憂鬱な気分に落ち込む。すごく、すごく、不愉快だ。
やはりピエロに関わると良いことがない。

「兄さん、いつまでそこにいるの。任務はもう終わったんだから、学校に帰るよ」
「…………なぁ、雪男。サーカスってやっぱすげぇよな、なんかこうワクワクするみたいな、感動するわ」
「そう?僕はあんまり好きじゃないけど」
「なんだよお前、まだあのピエロ恐怖症治ってねーのかよ、まだまだ雪男君もお子様ですねぇ」
「……怒るよ」

兄はぷっと笑ってあれこれ昔話をし始める。全部僕らがまだ小さかった頃の話だというのに、未だにぶり返すんだから腹が立つ。初めてサーカスを見た話なんていつの事だ、無駄な事ばかり覚えやがって。

「もう、ほら、帰るよ!まだ見るっていうなら置いてくからね!先に帰るからね!」
「なぁ!おい、雪男!」
「なっ!……んですか」

振り返れば真っ白い肌に鮮やかなメイクに赤い鼻、ニンマリと笑ったピエロの顔。涙の化粧に鳥肌が立った。

「ピエロが今度の公演のチケットくれるって……雪男!?おい、大丈夫かお前!!何でいきなり顔青くなってんだ、気分悪いのか」
「……だいじょぶだ、問題ない」

「コレ、アゲル」と動いた唇はやはりまたニンマリと笑っている。貼付けたような笑顔と目尻にできた人間らしい皺の不気味なギャップに思わず目が眩む。震える膝を心配したのか、ピエロは首を軽く傾げて「ドウシタノ?」という。何でもいい、早く家に帰りたくなった。


サーカスは相対性理論だとは良くいったものだ。兄さんは「サーカスの練習風景が見られるなんて、今日の任務は最高だったな!時間が早く経ったような気がした!」と嬉々としていったが、僕にとっては恐怖との戦いであり長く感じる時間との戦いでもあった。
ピエロなんて、もう二度と、会いたくない!






END
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巷で噂のクーザが見に行きたいです。

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