2011/02/05 00:56

竜ヶ峰帝人、彼がこの学校に転入したのには様々な理由があったのだが、その分しなくてはいけない決まり事もあった。
大人しく過ごし極力目立たないようにする、喧嘩沙汰なんて以っての外。そういうことはもうしないと誓っていた、ある人物のために。

二年A組の担任でもある数学教師那須島は、「みんな君の自己紹介聞いていなかったみたい、もう一回前に来てやってもらえる?」と教壇の横に帝人を呼んだ。
帝人は少しだけ嫌そうな顔をしたが、那須島が早くしろと急かすと嫌々ながらも素直に教室の前へとでた。

「竜ヶ峰、帝人です」

自己紹介といっても最低限、名前しかいわない帝人に那須島は呆れた様子で帝人に続きを言わせようとしたが、彼ははそれを「いいんです、これで」と受け流し、さっさと自分の席へと戻っていってしまった。
軽くあしらわれた那須島は少々ふに落ちないみたいだったが、丁度授業の終わりを告げる鐘が鳴ったので諦めたように溜息をついた。
教材をまとめると、隣の席の女の子に話かけてナンパをしていた正臣を引きずって教室を出ていってしまった。



「おい、お前が竜ヶ峰帝人か?」

休み時間にさらに騒がしくなった教室。
突然蹴り飛ばされた自分の机をすこし驚いた顔で見ていた帝人は、次にその蹴り飛ばした張本人をジッとみる。
その目は、怒っているようでも怯えているようでもなく、ただ静かに相手を見据えているだけ、そういう目をしていた。
無感情の眼差し、見つめられた男子生徒はそれを気味悪がり眉間に皺をよせ舌打ちをした。

「黙ってねぇで答えろや、お前が竜ヶ峰かって聞いてんだよ」

帝人は首を傾げて思った。何故この相手はこんなにしつこく名前をきいてくるのだ。さっきクラス全体の目の前で自己紹介したじゃないか。竜ヶ峰なんて名字が珍しいのは分かるが、でもそんなに必死になって聞くようなことじゃないだろう。不審に思いつつも、確かに自分は"竜ヶ峰"であると小さく頷く。
するとチームホルモンの一人のメンバーが顔を青ざめて「こいつに手出さねぇ方がいいんじゃねーのか」と怯え始めたが、他の四人は帝人に対して敵意むきだしな視線をぶつける。

「お前、喧嘩強いんだろ?」
「俺ら自分の目でみた事しか信じない質でね、お前の噂が都市伝説じゃねぇ証拠を見せてくれないかな」
「なぁ、竜ヶ峰君?」
「俺らの中で誰とやるか、決めろ」
「……」

リーダー各である一人が帝人の正面へと立ち、品定めするような目で椅子に座ったままの帝人を見下ろす。彼の中では帝人があの"喧嘩人形"とまで呼ばれたヤンキーであるという噂に不信感を抱いていた。
(だって、あまりにも"普通"すぎる)
たいして立派な筋肉もない体、細い脚、覇気の感じられない目つき、喧嘩慣れしていなそうな拳。そしてなにより、こうして喧嘩を売られているというのにまったく敵対心を感じられない相手の雰囲気。"普通"というか、"不良"にはみえないというか。
喧嘩を売る自分に対して怯えている様子ではないところをみると、肝っ玉の座った奴だなとリーダー各の彼は感心した。
だが、

「都市伝説なら都市伝説で、それ相応の対応の仕方があるから心配すんなよ」

"喧嘩人形"の噂が都市伝説で、相手が喧嘩慣れしていない一般生徒だろうと、殴り飛ばすのにはかわりない。
威嚇のつもりで拳を握りしめるとその意味を察したのか、帝人は目を細めて嫌そうな顔をした。

「お前があの"喧嘩人形"か?それとも都市伝説?どっちだよ」
「……」
「さっさと答えろ」
「僕は、」
「あ?」
「喧嘩はしないし、強くもない」
「ってことは、」

突然帝人が座っていた椅子が激しい音をたて倒れ、帝人本人は教室の床へと吹っ飛んだ。途中机や椅子などに体を打ち、殴られた頬は真っ赤に色を変えていた。
帝人が体の痛みに縮こまると、その背に帝人を殴った彼は足を置く。力を込めて踏むと帝人は呻き声をあげ、彼はにやりと笑う。

「ただの都市伝説。だそうだ、安心しろよお前ら」
「それならそうと早くいってくれればいいのに、竜ヶ峰君」
「まじでビビらせるなよ」
「じゃあとりあえず竜ヶ峰君、財布」
「……」
「よこせ、な?」

床に転がっている帝人は、もはや抵抗しようとは考えなかった。









「いやいやいやいや、可愛いパシリが出来て良かったな。美味しいホルモンも食えたことだし」
「あいつの財布の中、充実してたな」
「パシリ兼財布か」
「プラスサンドバックな」
「可哀相な奴。喧嘩人形なんて都市伝説、誰が作ったんだよ」
「ただの嫌がらせだったりしてな」
「ひゃー、不憫だなそれ」
「俺らがいうことじゃねぇけどな」








「先生なんすか、こんなとこまで連れてきて。ハッ、もしかして先生って俺の事が!?」
「安心しろ、男に興味はねーし、お前にはもっと興味がない」
「教師としてどうなのその発言……」
「まぁ一応俺も教師だから興味がなくても感心は向けなきゃならんわけで、だからこそお前に言っておかないといけないことがある」
「なーに先生」
「どういう風の吹き回しか知らないが、お前がまた学校に登校してくれるようになったのは嬉しい事だ」
「やだ、照れる」
「でもな、お前がまたあの頃みたいに喧嘩沙汰ばかり起こされると先生困るんだ。つまり、分かるな?」
「あーつまり、面倒な揉め事は起こすなって事ですか」
「いや、先生に迷惑かけるなってことだ」
「はいはい、気をつけますよ」
「本当だな?」
「本当ですって、極力ね」









(続く)

comment (0)


prev | next

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -