2011/01/22 02:21

「あっ、正チャン正チャン」
「はい?」
「ほら、月がでてる。今日は満月だねー」
「……あぁ、本当だ」

住宅街の真っ暗な空に浮かぶまんまるな星、彼は手袋をはめた手で指を差す。その先星は静かに、でも強い存在感を放ちながら光っていた。黒い夜空に貼付けたような輝き方をしていて、それを彼は「満月ってなんか不気味だよね」「なんだか空から落っこちそう」という言葉で揶揄した。
その隣、入江正一は「……そうですね」とどこかつれない返事を返す。眼鏡を押し上げながら、まるで興味がないといった様子で。
生憎彼には満月や星が落ちるなどファンタジーな発言が目立つ白蘭とは違い、そういった空想的かつ幻想的な感情が欠落していた。画面と数字と文字、そんなものばかり眺めていた生活を送ってたせいか、綺麗な星をみてもあまり自分の中でピンとこない、感情が揺れることなどなかったのだ。
そんな彼の性格を熟知している白蘭は、あはと笑って正一の荷物を持っていない手を握る。君のそんなところも好きなんだけど、たまにはロマンチックなことをいってみせてよ。
いきなり指を絡まれて、そのまま手を繋がれた正一は眉をよせて腕を振って抵抗する。ここは住宅街の道の真ん中、誰かに見られるのを嫌がっているのだろう。
拒否されたことを不快に思ったのか、白蘭だって意地になって正一の手を離そうとはしない。そんな彼らの無言の攻防はしばらく続き、ため息をついた正一が諦めることで決着がついた。ボソッと「大人気ない」といわれた白蘭だったが、ぎゅうぎゅうと嬉しそうに手を握りまったく気にしていないようだった。
そんな彼の手を正一も苦笑いしながらも、そっと握り返した。





I love you.
(月が綺麗ですね。)

それは、君と一緒にみているから。





END
――――――――――
だいぶ前にツイッタで聞いたお話を参考にしました。

comment (0)


prev | next

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -