2011/01/13 13:19

※他ジャンル(復活漫画)です
※白正です、正ちゃん可愛い可愛いです
※入江正一は俺の嫁














僕らの出会いの終末にはきっと、ハッピーエンドは待っていないだろう。
どちらか片方の願いが叶っても、もう片方は傷付いてしまう。お互い幸せになるという物語の終わり方は存在しない、存在しちゃいけないんだと思う。
それはどうしようもなく仕方のないことで、そういう理の中で僕らは出会ったのだ。



空は広く高くそして青い、海は広く冷たくそして青い。
そんな潮風のふく風景に包まれて大きく息を吸い込むと、体を駆け巡る空気が自然と体全体に馴染みだし心地がいい、なんだかとても清々しい気分になる。
研究と仕事に追われパソコン画面とばかり睨み合っていた僕は、目の前に広がる綺麗な空と海を不思議な気持ちで眺めていた。もしかしたら少し感動していたのかもしれない。なんせ久しぶりにみる非人工的な風景だ。世界にもまだ、こんなに綺麗な自然が残っていた。そう思って感動してしまうのはしょうがないじゃないか。
僕は久しぶりの自然に癒され、そしてそれが作り出す心地のいい雰囲気を噛み締めていた。

水平線に沿って辺りをみれば、無邪気に波と戯れていた彼がこちらに向かって大きく手を振っている。その様子は小さい子供さながら、僕よりもずっと大人なはずなのに本当におかしな人だ。
子供のように手を振り、大きな声で僕のことを呼んでいる。
耳になれ親しんだはず彼の声。そしてその声で呼ぶ僕の名。
あんな事件があった後だというのに彼は、未だに僕のことを「正ちゃん」と呼んでくれている。前まであんなに嫌だったそのふざけた呼び方も、今はどうしてこんなにも安心してしまうのか。そして同時に切なくも感じる。
僕は胸がぎりっと軋むのを苦笑いでごまかし、自分を呼ぶ彼の元へと歩く。
「白蘭さん、そろそろ部屋に帰りましょう」
「えー」
まだ帰りたくないとごねる彼を、やはり僕は自分より年上の大人には感じれないようで、まるで子供に帰るよう説得している親御さんみたいだった。
あともう少しだけとついには砂のお城を作りはじめ、あともう少しで帰る気がまったくなさそうな彼の笑顔に呆れてしまう。仕方がないので無我夢中で砂の芸術を制作する彼の横にしゃがみ、彼が遊びに満足するまで待つことにした。時折「手伝ってよ」という彼のために砂を周りからかき集めてあげたり、一緒にトンネルを掘ったり、なんだが恋人達がするみたいだなと思った。いや、どちらかというと幼い子供みたいの方がしっくりくるだろうか。
とにかく今の僕らは愛し合った恋人達かのように、昔からの親友かのように仲良く遊んでいる。
それはちょっと見ただけではハッピーエンドの絵にもみえなくもない、まさしく幸せ図なはずだろう。
だけど僕は知っていた。
彼の傷だらけの体、足首についた枷、時々みせる悲しげな顔、これは決してハッピーエンドなんかじゃないと。
彼は前のように異次元に意識を飛ばすことはしなくなった(出来なくなった)が、その分ふと思いをはせるような仕種をするようになった。その度繰り返すため息雑じりの彼の表情は、鳥籠に閉じ込められた小鳥を思わせる。
僕らによって飛ぶことを許されなくなった可哀相な小鳥。彼は今でも、自由に飛ぶことを望んでいるのだろうか?さっきから僕を痛め付ける胸の軋みがその答えのようで、弱虫な僕は彼に聞けずにいた。もし「そうだ」と答えられたら、僕はその鳥籠から彼を逃がしてしまうのだろうか。それを絶対的に否定ができない自分に落胆していまう。
母親と姉にいわれたように僕は、どこまでいってもへたれた弱虫。さらには救えないお人よしでもあるので、目の前のものを助けたいと高望みしてしまうただの馬鹿だ。

僕が助けられない罪悪感で悩むその横で、彼は砂のお城に「川」と称した溝を掘っているところだった。僕が少し目をはなしている間に城は、川もトンネルもバルコニー(っぽいもの)もついた豪華なものになっている。
この男、相変わらず自分が熱中することに対しては仕事が早い。
ふっと思わず笑いが出てしまう僕のことを彼も「なに笑ってんの?へんなの」と顔を綻ばす。
僕らは笑い合ったり遊んだり、こんなにもハッピーエンドに似た終末を迎えられたというのに、何故この広い世界に彼を自由にしてあげられないのだろう。何故彼ばかりが傷付いたのだろう。
僕はこんなにも、彼のことが、好きなのに。
胸の軋みばかりが痛むこの無傷な体を妬ましく思う。

「ねぇ、正ちゃん」

彼の手に付いた砂を払い落としてあげている僕の手を、突然彼はぎゅっと握りしめた。
指や手の平から伝わる彼の体温は、すごく暖かく心地良い。
僕が「なんですか?」と答えると、またあの顔。ため息雑じりの悲しげな表情。
なんでそんな顔をするんだ、白蘭さん。

「僕らが今よりももっと大人になって、二人で生活できるようになったら、この砂のお城みたいな大きな大きな家に住もうね?」
「えっ」
「しばらくは二人っきりで暮らして、そのうち赤ん坊を一人養子に迎えよう。できれば女の子。その子が僕らの子供だよ、大切に育てようね」
「……」
「今度は、幸せになりたいな」

彼は高く高く空を見上げていた。僕も同じように空をみる。
青色だと思っていた空はいつの間にか、太陽が沈み、オレンジ色へと色を変えていた。
オレンジ色のおしゃぶりを持つ女の子、彼女もまた、僕らの戦いに巻き込まれて傷付いた被害者の一人。彼は今たぶん、彼女について考えているのだ。

「僕が……あなたを、いえ、あなたとその子を幸せにしてみせますよ」

だからそんな顔はしないで。
僕もぎゅっと彼の手を握り返す。
二度とこの手を悲しませたりなどしない、僕ら三人で幸せになろう。






抱きしめ合う僕らのその横で、太陽が空から海へと沈んでゆく。
彼と僕が望んでいたことは一緒。自由なんかじゃない、お互いの笑って暮らせる幸せだ。

バッドエンドのその向こうで、僕らはハッピーエンドに出会えるのだろうか。
またここから歩きだし、彼と彼女と僕と三人で幸せに向かって。



END

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