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君に、触れる



黒→(←)夜久で短編詰め合わせ


1.濡れた頬に、(触れる)



「終わった、な・・・」

2年の時。都大会決勝、敗退。
まったく歯が立たなかった。
みんなと別れた帰り道で二人。黒尾はただ、夕焼け空を睨んでいた。

「・・・あぁ、」

夜久はうつむいたまま顔をあげようとしない。心なしか押し殺して出したようなその弱々しい声を聞いて、黒尾は振り返る。そのままとぼとぼと前へ歩き続けていた夜久は黒尾の胸あたりにぶつかった。

「黒尾?・・・」

ぱっと黒尾と目線を合わせる夜久は案の定、目元がほんのり赤い。目線がぶつかった途端、また反らされる。見んな、ということであろう。でも。もう一度うつむいた夜久の頬を包んで目線を合わせる。

「、っなんだよ・・・」

夜久の猫目からぽろぽろと涙が溢れ出した。見んな、情けない。そう夜久がたどたどしく呟いたのを聞き流して目尻を自分の指で拭う。すると驚いたのか安心したのか。顔を胸にうずめて、夜久は声をあげて泣いた。試合中は大きく見えるその小さな背中に腕を回す。コートの中ではみんなを守ってもらってる頼れるのこの背中を体を、今は、今だけは俺だけのものにしてもいいだろうか。そんなことを考えながら。


2.淡い夢の中で、

「黒尾、」

名前を呼ばれる。振り返るとそこに夜久がいた。いつもより赤い頬。柔らかそうな唇。何度となく欲しいと願ってきたそれらがそこにある。
自分の手を伸ばして輪郭に手を伸ばす。夜久はにやりと笑った。

「俺・・・、いいよ、鉄郎、」

耳元に甘い吐息がかかる。呼び慣れない名前呼びをされて、ワイシャツのボタンを夜久が一つずつ外していく。その仕草がたまらなく色っぽくて。ぶわっと体温があがるのがわかった。

「・・・っ夜久、」

本能のままに。自分が思い描いていたままに。獣のようだ、なんて言われても仕方ない。
口づけたかった優しい唇に噛みついて、脱がせたかった衣服を剥いで、見つめたかった瞳を、あわせたかった目線を、夜久の全部を貪る。

「っん、」

唇を離すと熱のこもった目が開いて、俺をとらえた。誘うような手つきで首に手を回される。上目遣いでにやりと笑う夜久が、下から迫ってくる。

「ねぇ、もっとさ、好きにしていいんだよ?」

テーピングの巻かれた細い指先が自分の唇をふわりと押す。その台詞、その動作、その表情。堪らない。壊したい、乱れさせたい。

「っ、本当に、いいんだな?」

もう一度、今よりももっとずっと深いキスをしようとしてもう一度手を伸ばす。くすっと夜久が音を立てて笑い、言葉を紡いだ。

「・・いいよ、」



ジリジリジリ
大きな音に驚いて目を覚ます。
・・・目を覚ます?

「・・・・夢・・・、だよな、」

朝日が目にしみる。
体を起こすとやはり、というか当たり前だけど夜久はいない。あんだけリアルに夢に出てきてしまうと本当に、現実にあったんじゃないかと錯覚してしまう。

「はぁ・・・・」

軽く溜め息をついて布団から起き上がる。夢に見てしまうくらい焦がれているなんて、自分でも、気持ち悪い。仕方ないかと言い聞かせて制服をまとった。合わせる顔がない。淡い淡い、溶けてしまいそうな夢の中で触れた夜久の体温はまだ、深くこの手に残っているような気がした。


3.指先だけでそっと、

冬期末テストまで3日。いい加減に勉強しろ、ということで部活動はテストまで休止になる。朝のホームルームでそう言われてからなんとなくやる気がでないまま1日が終わってしまった。クラスの、他の運動部の奴らは久々の休みだぜ、などと浮かれていて帰りのホームルームが終わった途端に帰っていく。黒尾は、夜久に職員室行ってくるから、と告げて教室をあとにした。



「スマン、夜久遅くなった、」

声に出しながら教室に入る。夜久以外誰もいない放課後の教室はとても静かでなんか変な感じがした。窓側から3番目の一番後ろの席で机に突っ伏して寝ている夜久の姿を見つけて、近寄る。その一つ前の席に勝手に腰かけてそっと声をかけた。

「・・・寝てんのか?」

いつもはしっかりと開かれている猫目が当たり前だけど、閉じられている。短く切られた前髪の所為で長い睫毛が際立つ。こんなに多くの時間を一緒に過ごしているのにこんな近くで夜久を見たことなんて、初めてかもしれない。

「・・・好き、だ・・・」

なんて。むずがゆいヘンなこの気持ちに名前があるとしたら、こんな言葉で言い換えるのだろう。面と向かって言う勇気はまだないので寝ているときくらいは。かすれる声でそっと言葉を落とす。
ふにふにとやわらかい左の頬に触れる。今はまだ、指先だけで、そっと。気づかれないように、そっと。


4.甘く揺れる髪に、

3年になって2週間。4限。体育。春のまだ少し寒さの残るこの時期にも関わらず体育教師は、昨日まで保健だったくせにサッカーに急きょ変更した。黒尾と夜久はAチームになり、6組と対戦しているところだ。

「黒尾ー!パス行くぞ、ほら!!」

夜久がそう叫ぶ。バレー部だから手でいろいろやってるはずなのに綺麗な弧を描いて頭上にくるボール。運動神経の良さがよくわかる。

「あいよ、」

そのまま、シュート。ギリギリでボールはゴールに入ってネットを強く揺らした。

「ナイス黒尾!!」

クラスメートからそんな歓声が飛ぶ。Bチームと交代、と言う体育教師の声がかかりぞろぞろとグラウンドの外へみんなで移動する。体があったまってきたな、なんてそんなことを考えていると隣でふわふわと柔らかそうな茶髪が揺れた。

「最後のシュート、良かったぜ!」

お前バレー部なのに良くあんなシュート打てるよなー。夜久にそう言われると素直に嬉しい。温まった体が更にあったかくなった気がした。

「お前のパスもなかなかだったぞ、」

そう言いながら22センチ下の茶髪を撫でる。柔らかい。夜久の匂いがして、自分から撫でたくせに、どきっとした。

「子供扱いすんなよ、コノヤロー!」

とりゃっと声をあげて脇腹にスパンっと手をいれてくる。子供扱い、そう見られてしまったか。そんなんじゃなくて、なんか、ほら、違う気持ちなんだけどな。はしゃいでいる夜久の横顔を見て、ちょっと甘い気持ちになった。


5.君を確かめるように、


「クロ・・・もう何年目?」

「・・・3年」

はぁ、と幼なじみが隣で溜め息を吐く。夜久を無意識に目で追うようになってから、この胸を焦がすような想いを自覚し始めてから早いもので3年目を迎える。新緑眩しい5月の帰り道。駅で他の部員と別れてから研磨と家までの帰路をだらだら歩いていた。

「伝えたいのはやまやまなんだよ、俺だって、」

そう。言えることならさっさと言いたい。振られることを考えたくないので良い方向にしか未来を持って行くことが出来ない俺の頭はそろそろ、限界だ。

「じゃあ早く言いなよ・・・」

「引かれたらどうすんだよ、予選始まんのに」

「女の子じゃないんだから・・・」

研磨の言葉にうっ、と言葉が詰まる。こんな振られるのが怖いとか、この関係を壊したくないとか、本当に女子みたいではないか。

「今日、おれクロの家だ・・・」

「あぁ、そうだっけ」

研磨の両親が留守の時はだいたい俺の家に来て、夕食を食べることが昔から多かった。また逆もしかり。とは言っても隣の隣という本当にすぐそこなのであまり変わらないのだが。

「はぁ、もう、本当。どうすっかな・・・」

いい加減聞き飽きた、と言わんばかりの目線をこちらに向けてくる。研磨は何か言いたげに俺の目をじっ、と見てまた、はぁ、と溜め息をついた。

「今日、どうやって伝えるか考えよう・・・手伝うから。」

「・・・サンキュー」

このやる気のない幼なじみが、こう、自分から何か言い出す時は。なんというかやる気が出た、というか。なんとしてでも成功させるみたいな時だということは長年の付き合いでもうわかっている。つまり、もしかしたら俺は心の整理がついていないのに、明日夜久に想いを伝えることになるかもしれないのだ。少し緊張しながら、家の玄関を開けた。


翌日。
やはり告白することになった今日の日はこれでもかというほどに温かく、雲一つない天気の良い木曜日だった。実行するのは部活が終わった後。教室へわざと忘れ物をして、夜久と二人でとりに行く。自然に伝えれば良い。貰ったアドバイスをしっかりと頭の中で何度も唱えながら1日を過ごす。
緊張しながら過ごす1日は、いつもと違う角度で自分自身を、夜久を、見ることができて、つくづく一緒にいる時間が多いな、と自惚れた。朝練終了後に隣で着替えてたり、一緒に教室まで歩いたり。後ろの席からちょっかいを出されたり、お前背でかすぎて黒板見えねーんだよ、と言われたり。机を合わせて弁当を食べたり、弁当だけじゃ足りなくて購買まで走ったり。改めて気づかされる、自分に必要なんだと思わされる夜久の存在。本当にこの気持ちを伝えてしまって大丈夫なのか。明日からこんな距離で接することはなくなってしまうのではないか。不安は積もるばかりで、一向に霞は晴れない。午後の授業が始まる。いつも以上に集中力はない。終わりが迫るにつれて。部活のメニューが一つ一つ終わるにつれて。心臓がどくどくと早くなる。



「終わりにします、あざーしたっ!!」

体育館の時計が午後7時30分を指した。いつも通りにミーティング終了のかけ声をかけて、体育館をあとにする。

「・・・クロ、」

「・・・あぁ」

研磨の無言の応援を背中に聞いて、鞄を肩にかけた。大丈夫。ここまできたら、やれ。自分に言い聞かせて夜久に声をかけた。

「あー、夜久。ちょっと教室に忘れ物しちったから一緒に来てくんね?」

「あ!生物のプリント?俺も忘れた!!行こうぜ!」

あきらかに不自然だったであろう、その誘いに乗っかってくれて、ひとまず安心する。いつもは全員で帰るので最後の人が出てくるまで待っているのだが、今日は駄目だ。あとで追いかける、そう海に伝えて校舎に向かった。

夜のこの時間帯に二人で歩くのは、当たり前かもしれないけれど初めてだった。歩きなれてるはずの渡り廊下は、いつもよりもずっと静かで、入りなれてるはずの5組の教室はなんとも言えない緊張する雰囲気を醸し出していて、心臓がはじけそうだ。

「本当に生物はプリント多くてむかつくよなー!」

夜久の声が、聞こえた。明るい、ハキハキした俺の好きなこの声。あぁそうだな、などという軽い相槌さえも返せずに、下を俯いていたら、また、声が聞こえた。

「黒尾・・・?」

なんかあったの?20センチ下から見つめられるその猫目はただただ純粋に。「友人」として俺を心配してくれていた。罪悪感でこころがちくりとする。

「夜久、」

声が震える、なんて。そんなこと考えてられない。愛しいその名前を呼ぶ。

「ん?」

「あー、笑わないで、聞いてほしいことがある」

サァー、と風の音がする。冬に比べたらだいぶ日が延びてはいるけれども7時を過ぎるとやはり薄暗い。
次はなんて台詞を言えば良いのだったっけ?目線を合わせて良いのだったっけ。何度も何度もシュミレーションしたはずなのに、頭は働かない。


「ごめん、夜久に惚れました。」

やっとのことで振り絞った言葉はなんとも情けないものになってしまった。こんなはずじゃない。こんな言葉で伝えたかったんじゃない。今更頭に流れてきた、言おうと思っていた言葉は行き先をなくして俺の頭で右往左往している。
怖くて合わせられなかった視線をあわせるためにチラッと下を見ると夜久が、えっ、と驚いて目を見開いていた。

「っ、ごめん、やっぱ、」

なんもない、そんな嘘を吐いて。夜久に背を向けて、鞄をとろうとした時。

「まてよ、」

そう聞こえたのと同時に背中に、人の温もりを感じた。

「や、夜久、」

「こっちむくな、」

ぎゅっ、と前に手を回されて、お互いの体が密着する。今、夜久がどんな顔でいるのか、どんな気持ちで俺に抱きついているのか、わからないけれど。

「黒尾はさ、なんなの、」

「は?」

前に回された手に力がこもる。いつものようなハキハキした明るい声ではなくて、震える、か細い声で夜久は話を続けた。

「そうやって、俺のことなんでも見透かすみたいに言ってさ、」

もしかして。もしかして自分の望んだ、3年間夢見た未来になるのではないかと、期待が膨らんで。いや、でも、と自分を抑える。

「いつも鈍いくせにこうゆう時だけかっこいいとこ持ってってさ、」

「夜久、・・・」

自分の体を回転させる。下を見ると、夜久のふわふわの髪が見えた。いつの日か触れたようにさらりと撫でると、夜久はふっと顔をあげた。

「ばか黒尾!俺もだよ、」

不安だったんだよばか!いちいち優しくするからちょっと期待しちゃったじゃねーかばか!恥ずかしいんだよコノヤロー!
耳まで真っ赤にして涙目でそう言ってくる。今、告げられた言葉の意味をようやく理解して、嬉しくて、戸惑いが隠せなくて、でもやっぱり嬉しくて。

「俺と付き合ってください」

そんな告白の模範のような言葉しか出てこないけれども。

「・・・もちろん」

返ってきたのはとびきりの笑顔と、待ち望んだ言葉。目線が絡み合うと、ふっと緊張した空気がきれて、笑いあった。
手を、指を絡め合う。あなたの優しさを確かめるようにぎゅっと。俺だけのお前を誇るようにぎゅと。



君に、触れる
(大好きな温もりを離さないように、ぎゅっと)


だらだら長く書きすぎて自分でも驚いてます。5番が書きたくて書いたのに5番が一番失敗してるというこの悲しさ・・・。
スペシャルサンクス!
(C)確かに恋だった
http://85.xmbs.jp/utis/







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