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溜息まで白い



一つ上の先輩が引退してから3ヶ月。ついこの前まで蝉が鳴いて、暑くて暑くてたまらなかったはずなのに、もうマフラーが必須の時期になってきてしまった。
クリスマス、正月、バレンタインと華やかな行事が終わってしまったこの時期は、どことなく人肌恋しい。そんな夜久の想いを見透かすかのように黒尾はそっと夜久の冷たい手をとった。
ぎゅっ、とやわらかく握り返されたのを確認して、自分のブレザーのポケットに突っ込む。

「・・・はずかしいやつ、」

ぼそっと夜久は呟いた。東京都、と名のつく割には人気の少ない閑静な住宅街をこうして二人、歩くのはもう何度目だろう。そう考えると胸がちょっと温かくなる。

「人肌恋しいなー、とか思って、」

言葉を紡ぐ度に出るのは優しい言葉と、白い吐息。チラッと上を見ると、空を見上げている恋人の姿に少し、ふわっとする。相変わらず黒尾のブレザーのポケットに突っ込まれたままの二人の手は静かに指を絡め合った。

「あ、」

ふと、右を見ると自分たちにとってはかなり小さめの遊具が並ぶ公園を見つけた。そして、いろんな記憶が蘇る。入部してすぐ、海と、黒尾と三人で夜までだべった。はじめて黒尾の家に行ったときに、勉強しに行ったのに体を動かしたくなってバレーボールを繋いだ。はじめて研磨に出会った。今年になって部員でみんなではしゃいだ。そして、ここで、好きだと言われた。ここで、はじめてキスをした。

「・・・あぁ、懐かしいな、」

誘われるようにふらふらとブランコまで足を運ぶ。悲しいことに俺は座ることができるけど、黒尾は座れないらしい。ブランコの前の小さな鉄棒みたいな形をしたやつに、腰をかけた。

ふぅ、っと軽く息を吐く。やはり白い。こんななんでもない時間がたまらなく嬉しくて、楽しくて。この遊具に座ると少しだけ黒尾の目線に近づけることが、いつもは上から降ってくる目線に、言葉に、唇に、対等になれる気がしてちょっと、優越感があった。

「ねぇ、」

だからさ、黒尾。
崩して結んでいるネクタイの上の首を、口元を隠すように巻かれたマフラーを少しずらさせて立ち上がる。なんだよ、と言うようにこちらを見る黒尾の目線よりも上にきて。下から見上げる黒尾とは少し違う気がしてやっぱり心臓はうるさくなる。

「あのね、」

マフラーの下からのぞく形の良い口元に俺の唇を押し付ける。ふわり、とやわらかいかんじがした。

「・・・すき、」

耳元で小さく唱える。夏の暑い日。うるさく鳴く蝉たちに見守られながら黒尾に言われた言葉を、そっくりそのまま返す。めったに自分からすることのないその行為は、少しだけ恥ずかしい。目をあわせられずにいると、黒尾が立ち上がった。

そのまま吸い寄せられるように唇を重ねる。キス、上手いな。なんて。少し悔しくなったけど。

「・・・・俺も」

耳元で囁かれる。心地よいテノールボイスが脳に直線語りかけてきてるみたいで、ぞくっとする。すぐ上で口角をにっとあげる黒尾を見て、ドキっとした。すぐ隣では白い息がふわりふわりと冬の空気に溶けていった。



溜息まで白い
(あなたと一緒、なら)


一周年ありがとうございました!
見方によっては夜久黒にも見えそうな黒夜久。なんか黒夜久はちゅーしてる姿が似合うなと思います。文章が全体的に幼くなってしまった・・・反省してます・・・
タイトルは確かに恋だったさまより







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