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それは甘い甘い恋のはなし



「私、黒尾くんのこと・・!」


いったいどうしてこんな場面に遭遇してしまったのだろう。
事の発端は10分前。今日は部活ないんだよなぁ、教室で黒尾と話していたらクラスメートたちに久々に3の5男子でカラオケ行こうぜ!と誘われた。部活に入ってる奴の少ないうちのクラスはみんな仲が良い。俺と黒尾はいつも練習だから一緒に行く機会は少ないけれども他の奴らは何度か遊びに行っているらしい。たまにはバレー部ばっかじゃなくてクラスで遊びに行くのも面白い。もちろんOKして放課後が来るのを待っていた。

「夜久ー!早く行くぞー、!」

「おう!」

男子高校生10何人が同じ場所に向かって歩いているのは周りから見たらかなり威圧感があるのだろう。悔しくも俺よりみんな10センチかそこら背が高い。

「俺、財布の中入ってねーかも、」

こないだサポーターを一つ購入したことを思い出して鞄の中の財布を探しだす。白のエナメルバックを開けるとあるはずの場所に財布はなかった。

「やべっ、財布忘れた!」

「おー、じゃあ取ってこい」

そこのコンビニの隣のカラオケに行ってるから追いかけてこいよ。友人たちの言葉を聞き取って校舎へと逆走する。

「あっ、そういえば黒尾もまだ学校だからお前ら一緒に来いよ、」

「了解!」

聞いたところによると今日提出のはずの数学のプリントを忘れて職員室にいるらしい。まったく、何やってんだか。


そんなことを考えながら教室まで駆け上る。3年5組と記された部屋の後ろの扉を開けようとした。その時。


「ごめんね、いきなり呼んじゃって・・・」

うわ、これもしかして告白真っ最中だった?誰だろ・・女子が呼び出したっぽいな。プライバシー侵してはいけないとか、そんなことわかってるけど好奇心には勝てない。扉にかけた手を下ろしてそっと教室の中を見てみる。と、見慣れた顔があった。

「・・・いや、べつに・・・」

酷い寝癖とゆっるゆるのネクタイ。帰ろうとしたところだったであろう、エナメルバックを肩掛けしているその姿は紛れもない、うちの部の主将だった。

(黒尾・・・・!?)

思いもよらない人物の思いもよらない場面に出くわしてしまった。・・・どうしよう。そりゃ黒尾がモテることくらいわかってたけど。

(・・・・、なんか、)

ズキズキする。自分が告白されてる訳でもないのにどきどき心臓が動いてて、なんか嫌だ。

「私、黒尾くんのこと・・・・!ずっと前から好きでした!」

女子特権の上目遣いで。女子特権の可愛らしい甘い声音で。ふわふわの黒髪をなびかせて短めのスカートから伸びる、タイツに包まれた脚は確かに綺麗だ。男なら誰でもきゅんときてしまうであろう。それくらい、告白してるやつは可愛かった。
黒尾が目を開いて驚いている。そりゃそうだ。あんだけ可愛らしい女子に告白されてんだ。あぁ、そっか。黒尾にも彼女ができるのか。なんか、変な気分だな、なんて。
多分、ちょっとだけ、好きだったから。いや、女子じゃなくて、黒尾が。言わなかったけど。我慢できるくらい小さな小さな気持ちだったし。でも、やっぱりいざこうなると胸が痛くなってしまう。

(しかたない、・・・・)

こうなったら全力で応援してやる、ちょっとだけ、つんときた鼻の奥の痛みを無視しながら続きを聞く。


「え・・・っと、すまん、俺好きなやついるから、・・・・」


は?
まさかの返答。お前、好きな人いるなんて話聞いたことないぞ。相談もしてくれなかったのか。・・・なんかいろいろショックだ。誰なんだよお前の好きな人って。

「・・・そっか、わかった。ありがとう。」

涙ぐんだ声が中から聞こえてくる。ごめんね、と弱い声を発した彼女は俺のいるほうと反対の扉から去っていった。・・気づかれなくて良かった。





「モテ期ですなー、黒尾さん。」

ちょっとちゃかし気味の声を作って教室へと入る。立ち尽くしていた黒尾は驚いたようにこちらを見た。

「おまっ、見てたのかよ夜久、」

財布取りに来たんだよ、クラスの奴ら待ってるぞ。そう言いながら自分の机を漁る。

「・・・で、誰なの?好きな人って?」

聞いたら傷つくだけなのはわかってるけどそれでも気になるもんは気になる。今まで好きな人がいるとかあの子可愛いよなとかそんな話をしたことがなかったから期待は大きい。


「・・・笑わねぇ?」

窓側の前の席で財布を見つけ終わってエナメルバックの中にいれた。教卓の前に立っている黒尾を見る。いつになく真剣な表情で、こっちがなんか緊張する。

「笑うわけねーだろっ、」

この離れた距離で言わせるのはそれなりに大きな声も必要になるだろう。それは少しかわいそうなので黒尾のもとへと近づく。教卓を挟んで向き合うと、やはり身長差が歴然としてしまって、悔しい。・・・こわいなぁ。やっぱり聞きたくない。でも聞きたい。矛盾する心を抑えて言葉を待った。




「・・・好きだ、・・・夜久、」

「・・え?」


突然の告白。冗談だろ、まったく。期待させるようなこと言うなよ、そう言おうとしたけど、唇は動かない。だってあまりにも黒尾の表情が真剣だから。バレーしてるときくらいに真剣だから。・・・我慢してた。あまりにも小さな小さな気持ちだったから、このまま終わったってべつにいいや、って。あまりにも黒尾が近すぎたからこれ以上距離を詰めなくたっていいや、って。
でも、でも。今は我慢しなくていいんだよね?距離を詰めたっていいんだよね?

「・・・黒尾のこと好き、でもいいんだよね?」

ヤバい、涙腺が緩みそうだ。目尻がぐんっと熱くなる。ちらっと上を見上げると、黒尾がいた。当たり前だけど、俺の好きな、大好きな黒尾がいた。


「夜久、やく、」

名前を呼ばれる。女子の可愛らしい甘い声音じゃない、黒尾の優しい声だ。俺の好きな声だ。

「くろぉ、」

好き、大好き。言っても言っても言い足りないその愛の言葉を紡ぐ。手が、女子の綺麗な手じゃない、マメだらけの大きな手が、頬に触れる。なんだかこそばゆくって、あったかくって。安心する。
手を伸ばせばそこに、黒尾がいる。だから、手を伸ばして、肩を、首を抱く。あぁ、黒尾の匂いがする。優しくって猫みたいなお日様の匂いがする。

「夜久、好きだ、愛してる、」

定番過ぎる甘い言葉と優しい口づけが降ってくる。こんなベタすぎる告白が、言葉が、キスが、全てがむずがゆい。全てが愛おしい。

「・・・俺も、」

熱い目尻についた水滴をゆっくりとなぞられる。細長い綺麗な指先は、少しだけ震えていた。それが少し可笑しくて、可愛くて。もう、本当に。大好きだ。

「行こっか、みんな待ってる、」

気恥ずかしさを隠してエナメルバックをかけなおす。黒尾より上にある時計を見上げると5時の10分前。俺はこの時間をきっと生涯忘れないだろう。

「そうだな、」

教室の扉を開ける。夕日に染まった校舎はいつもとどこかが違うような気がした。黒尾が、ブレザーのポケットに突っ込んでいた手を出して俺の右手をとる。まったく、そんな恥ずかしいことを良くできるな。そんなこと思いつつも俺より一回り大きな手を握り返した。



それは甘い甘い恋のはなし
(繋いだ手を、離さないで)


なんか唐突に書きたくなった黒夜久。情景描写・・・っていうんですか?あれができるようになりたいです・・・黒夜久ちゃんはどっちも笑えないくらいモテると思います。それでお互い不安がってれば良いてです。それか自慢げでも良いなぁ・・・俺の恋人モテちゃって本当可愛い(かっこいい)、みたいな。







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