風が運んできたのは |
6限終了のチャイムが鳴り響いているのはわかるのだけれども体がなかなか言うことをきかないのでそのままの状態でチャイムが鳴り終わるのを待っていた。
「夜久、おい起きろ、」
一番窓側の、しかも一番後ろの席というのは午後になると温かい太陽の光が睡魔を呼び起こす。しかも前にいるクロのせいでまったくと言っていいほど黒板はみえない。この187センチめ。とは言いつつもおかげさまで寝ててもあまりばれないし、それに、まぁ、クロの、背中を見てられるのだから、まぁよしとしよう。
「え、あっ、うん。なに、どうしたの?」
ぼうっとしていた頭にクロの声が響いて、やっと眠気は覚めたような気がする。
「今日のメニューなんだけど・・・」
好きな人が同じ学年で、同じクラスで、同じ部活で、しかも席が前後っていうのはもう本当にに何十億分の一とかなんだろうな。そんな乙女チックなことを考えながらクロに返事を返す。
「あ、うん、もうちょい基礎入れて・・・・」
そう、あと一時間。我慢すれば大好きなバレーができる。そう考えたら次がどんなに嫌いな数学だろうと頑張る気になれた。やべっ、数学忘れた、などという声が教室では飛び交わっていて隣のクラスに駆け込むやつが多い。一時的にちょっと教室が静かになる。人も少ない。なんとなく声を潜めて喋っていた。
ふいに、風が吹く。隣にあったカーテンが俺とクロを包み込むようにしてふわり、と揺れた。
カーテンに包まれた二人の空間はなんだか不思議な感じで。それまでお互い下を向き合っていたのにその瞬間、顔を上げた。
無言で見つめ合う。切れ長の目が俺を捉えて離さない。やめろよ、そんな見るなよ。ばれちゃうだろ。心の中でいくら唱えたってクロに聞こえるはずもないのに。いい。今の関係が崩れてしまうなら。それ以上前に進まなくたっていいから。我慢するから。なのに。
「なんで、そんな真っ直ぐみつめるんだよ、」
無意識に口に出していた言葉。それはゆっくり空気を震えさせては音となってクロの耳に、伝わった、のかな。
気がつくとクロの手が俺のほっぺたに置いてあって、びっくりしたときには顔が目の前にあり、お互いの唇は触れ合っていた。
「え・・・・」
はっ、と目を見開いていそいそと手を戻したクロはやべ、やっちまったみたいな顔をしていた。
「ごめん、」
本当に申し訳なさそうにあやまる。俺もようやくいま起きたことがわかって顔が熱くなる。我慢してたこの気持ちが、少しずつ、晴れていく。
「あやまんなよ、ばーか」
少し背中を伸ばして、もう一回。さっきの場所に唇をつけると驚いたようにこちらを見てきた。
「おまえからしてきたんだろ?じゃあ、俺だって、その、したい、だろ?」
言わせんなよ恥ずかしい。そう言うと撫でられた猫のようにクロは笑った。不覚にもドキっとしてしまった自分が悔しい。この色男め。
「じゃぁ、今日俺ん家来いよ、」
もっと、しようぜ、
そう声に出さず口の形だけで伝えてくる。さっきまでの純粋な笑顔はどこ行ったんだよ。そう言いたくなるようなかっこいい表情で。自分でも顔が赤くなっているのがわかるくらいだ。あぁもう俺コイツのこと好きになっちゃったよ、手遅れだ。そう心に感じた高三の春。優しい春風がくすぐったく頬を撫でた。
風が運んできたのは
(キスという名のラブレター)
もっとばかっぷるっぽくチュッチュべたべたさせる予定だったのに・・・
お互いに今の関係を壊したくないけど恋人になりたい、純粋そうにみえて内心ガツガツな黒×ツンデレ夜久さんが書けたから満足です。
20130301 加筆