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うたかた花火1



汗だくのTシャツを無造作に洗濯機にぶち込んで、浴衣をまとう。シャワーを浴びたばかりで、風が当たるとひんやり冷たくて気持ちが良い。風通しの良い袖口に襟元。腰のポケットに小銭をいくつかつっこんで、蛍に誘われるまま河川敷を目指した。



うたかた花火



溢れるばかりの人、人。8月末のこの夏祭りはこの地方に伝わる昔からの伝統行事であったので二口自身も毎年来ていた。小学生からお年寄りまで、地元の人々で賑わっている。

つい先ほどまで蒸し熱い体育館でバレーボールを追いかけ回していたからか、シャワーを浴びてきたのにも関わらず身体の中からむわっと空気がおしだされる様なうっとおしい感覚が続いていた。
だけれども、風通しの良い浴衣を着て、歩く度にカラカラと音が鳴るーー少し浮いた気分になるんだーー下駄も履いて。
はやく、早く、見つけてくれないかな、なんて。わざと音を立てて歩いていた。

「二口、」

屋台の立ち並ぶ道から少し離れた、おはやしが聞こえる程度に離れたガードレールに軽く寄りかかっていると、聞き慣れたテノールボイスが俺の名を呼んだ。

「・・さっきぶりっす、」

「なんだその挨拶・・・」

鎌先先輩の渇いた笑い声が夏の空気に溶けていく。ただでさえ、こんなにも暑いのに、こんなむさ苦しい先輩と一緒、だなんて。まったく、顔が熱くなる。なんだっていうんだよ。

「可愛い女の子と来たかったなー」

「こっちの台詞だ、ボケェ」

バレーバレー、またバレーと明け暮れている夏休みで、彼女を作って夏祭りに行くなんて夢のまた夢だ。

茂庭さんとか笹谷さんももちろんなんだけど、何かと鎌先さんと接することは多かった。どうも馬があわないのかなんなのか、しょっちゅう言い合っていた。そんな日頃の行いのせいで茂庭さんの計らいでバスの席が隣だったり。
なんだかんだ言って、俺はこの暑苦しくて重い先輩と一緒に居る機会は多いのかもしれない。と、そこまで考えて、やめた。

(ちがう、これは、!違うぞ、)

そんなわけない。認めてやるもんか。キッと満天の星が広がる空を睨み付けて、アスファルトに視線を落とした。

隣を歩く先輩の大きな手がチラチラと当たる度になんだかこそばゆくなりながら、どちらからともなくたわいのない会話を続けていると、ふいに華やかな花火があがった。

「お、花火」

ほら見ろよ、なんて夢中で見上げる先輩の横顔。チラッと盗み見たその表情はキラキラしていて、あんた子供ですか、なんて笑い飛ばしてやろうかと思ったけど。馬鹿みたい、よりもなんだか少しドキッとしてしまって、自分でも良くわからなくなった。

「ほんとだ、綺麗、っすね」

当たり障りない適当な相槌を返して、空を見上げた。あぁ、星が本当に綺麗だ。花火のバックで輝いている小さな小さな星たちにさえ、感動してしまって、なんだか調子がでない。なんで俺はこんなにも緊張しているのだろう。

(馬鹿はどっちだよ・・・)

認めるもんか、でも。
受け入れるしかないこの気持ちを素直に認める。
はぁ、と軽くため息をついて、また先輩のほうを見ると心なしか、顔が赤い。暑いからだろう。ふと合ってしまった視線を照れてしまって、すぐに逸らしてまたアスファルトを見る。

あなたへのこの恋心を、認めてしまったら。世界が180度変わってしまった。良い意味でも、悪い意味でも。
こんな気持ち知らなきゃ良かったんだ。気づかなければ、認めなければ良かったんだ。
気づかれないように吐いたため息は、夏の夜空に溶けていき、花火の声にかき消された。


うたかた花火
(淡く儚い恋模様はまだ自分でも気づかないんだ)


supercellさんのうたかた花火がイメージです。ほんとにこの曲が好きすぎて!鎌二ってこうゆうイメージなので書いてみました、うたかた花火前編です。中編後編もゆっくり書いていけたらなぁなんて。



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