夢にまで見た恋だった |
先輩と、俺。
この立ち位置はどんなに足掻いたって変わらないことくらいわかっていた。生まれてしまった年。過去に戻ることができる、なんて夢みたいなことができない限り。
どんなに頑張ったって茂庭さんたちみたいにクラスでも、部活以外でも一緒、なんてことは、無理だ。ましてや俺も先輩も、男。女だったらラブレター渡すだの差し入れ持ってくるだの試合応援しに行くだの、できたかもしれない。所詮俺はその程度なんだよもう。
それでも、好きになってしまった。
それでも、焦がれてしまった。
毎日が楽しくて、世界の色が明るくて、先輩にとって俺はただのクソ生意気な後輩かもしれないけど、それでも、少しでも近くに居れたらそれで良かった。
そう、実る可能性なんてほぼ、ゼロ。そんな不毛な恋だったんだ。
「ちーす、」
ホームルームが珍しく早く終わって、青根はなんか呼び出しされてていなくて、1人部室のドアを開けて軽く挨拶をする。
「おーす、早ぇな」
先輩のが早いでしょ、なんて思ったけど。一番乗りだと思って開けてドアの先には練習用のジャージをまとった先輩がいた。
「先輩こそ、早いじゃないっすか」
そんなたわいもない会話を続けて、茶化しあって、いつもみたいに先輩が先行ってっから早く着替えてこいって部室出て、ネット貼る作業にうつるはずだったのに。
それは着替えてた時だった。俺の後ろにいた先輩がバンッとロッカーに向かって手をついたのは。顔面の横を、風を斬る音がして、なんだよ、と思って顔をあげたら、先輩の顔。
「・・なんですかこれ」
近い、近い。やめてくれ、せっかく我慢してたのに、認めなかったのに。バレてしまうじゃないか。恥ずかしくて目が開けられない。まぶたを閉じて目を伏せる。怖いんだよ、バレるのが。
「こっち見ろよ、二口」
あぁ、エイプリールフールだもんな。いつも先輩のことからかって遊んでるから、罰が当たったんだ。こんな形で弄ばれるなんて、本当に最悪だ。くそ。目尻が熱くなってくる。
「っやだ、・・・すみ、ません、もう、やめてくれよ・・・」
みっともないのも、気持ち悪いのも、この想いが叶わないのもわかってるから、だから、もうやめてくれ。
「えっ?あ、おい、何泣いてんだよ、二口、」
先輩がおろおろと行き先を無くした腕をふらつかせている。その強そうな、俺の好きな腕を目線で追っていると、ふと目線が絡んだ。
「っ、」
合わせられない、目を見て話すなんてできない。こんな泣きはらした顔見られるなんて。
「目ぇ見ろよ、おい」
「なっ、んすか、」
先輩の腕が頬に伸びた。あったかい。包み込まれるようにして、目線を合わせられると、目の前の唇が言葉を紡いだ。
「なんかさ、俺、お前のこと毎日目線で追ってるんだけど、」
どうすればいい?なんて、知らねえよそんなこと。期待させんな。
「だから、なん、だよっ・・・」
頬に触れた指が、長くてゴツゴツした指が優しく頬を撫でた。
「好き、なんだけど」
誰が?誰を?
そんなことがわからないくらい俺だって鈍感じゃない。
先輩が?俺を?好き、とか。
「っは?何が、」
こんな時でさえ、こんなつんけんした態度しかとれないけれど。
「あ?だから好きだって言ってんだろ、聞こえねーんかよ」
いつもの調子で先輩が言う。
憎まれ口を叩くように。練習中のくだらない痴話喧嘩をするように。でも、その言葉は馬鹿とか生意気とかじゃなくて、好き、という愛の言葉であって。
「・・・ほんっと、いみ、わかんな、」
なんだよ、好きだとか。ほんとになんなんだよ。
「俺も、好きです、」
ちらりと目線をあげると先輩が笑った。試合に勝ったときのような無邪気な笑みを浮かべて。おずおずと手を伸ばしてみる。先輩の首に手を回すと、後頭部をぐいっと押されて抱きしめられた。ゴツゴツした手で頭を撫でられる。こそばゆい。でも、悪い気なんてさらさらしない。
がチャリと部室のドアが開いて、茂庭さんにやっとくっついたか、と安堵されるなんてこの時の俺たちはまだ知らない。
夢にまでみた恋だった
(夢で終わらせないでくださいね?)
20000感謝ですー!!
初めて鎌二書いた!わたしの中では鎌二はにろが泣いてるイメージが強いです。