素直になれないお姫様 |
及夜久(及川×夜久)
ナチュラルにお付き合いしてます
及川さんが東京に遊びに来てます
「ばあか、言わせんなッ!」
徹のばか!コノヤロー!察しろよコノヤロー!
俺のシャツの胸ぐらあたりをきゅっと握って、ゆさゆさと揺すられる。あぁ、もういちいち可愛いなぁ。なんて悠長なことを考えていた。
「もう、衛輔ごめんったら、」
俺も大好きだよ、なんて。
軽く誰にでも口にしているようでしていないこの言葉を。心の中の少しの、本当に少しの緊張を悟られないように告げる。
東北の冬はまだまだ厳しい寒さが続いている。大学も決まってだらだらとテレビを見ていると、突然携帯が俺を呼んだ。
大学決まったんだろー?
たまには遊び来れば?
短い文章に、絵文字のない簡素なメール。女の子はこんな色のないメールを送ってこないのはわかってるから。送信元を見て、やっぱりね、と納得した。
夜久衛輔。愛しの恋人の名前を確認して、少し心が躍る。東京と宮城という遠距離恋愛ではあるが、電話をしてみたりメールをしてみたり。内容は些細なことでも、声が聞きたい。そんな思いを抱えながらお互いに距離を縮めていた。
じゃあ来週行くね!
この間会った所で!10時。
何を着ていこう。どんなことをしよう。思いは募るばかりで。早く来週にならないかな。浮き立つ気分を抑えて、学校へと向かった。
「こんないきなり来るとは思わなかった・・・」
開口一番。
宮城からはるばるやってきた俺に衛輔が言った言葉はこれだった。
「ひどいなぁ、普通、会えて良かった!とかひさしぶり、とかでしょ!」
だって思いだってふっ、っとメールして返ってきた返信がこれとか、普通予想しないだろ!
確かにごもっともな意見かもしれない。俺だって元気ー?ってメールした次の週、衛輔が仙台駅に来たらそう思うはず。
「まぁ、でも、徹に会いたかった、し・・・」
そう言ってふにゃぁっと頬を緩ませて衛輔は笑った。久しぶりにみた恋人の笑顔に不覚にもドキッとする。だけど、そんな素振りなんて見せずにいつもの調子で会話を続けた。
「俺も会いたかったよ、本当に久しぶりだもんね〜」
わしゃり、と頭を撫でるとやめろばか、と小さく抵抗された。いちいちそんな仕草が可愛くて。
だいぶ温かい東京の空気を肌で感じて近くのファミレスへと歩きだした。
都会は、良い。
こんだけ人が多い交差点では手を繋いでいたってばれないし、むしろ田舎から来た友達をはぐれないようにエスコートしてると見られるだろう。道行く人々は俺たちの会話なんかには耳を傾けないし、ファミレスで愛の言葉を紡いでいたってヘンな目で見られることもない。自由な街だ、と思う。
「俺も東京に生まれればよかったな〜」
ナポリタンを飲み込んで、一緒に、口にしかけた好きだよという言葉も飲み込んで、違う言葉を口にする。
「なんで?」
「だって、そしたら毎日衛輔にあえるじゃん、」
もし東京に生まれていたら、一緒にバレーを出来ていたかもしれない。同じ学校に通えていたかもしれない。時々衛輔が話す、バレー部の仲間の中に俺も混ざれていたかも。もっももっと多くの時間を一緒に過ごせたかもしれない。
頭に浮かぶのはそんな、たられば文句。
「そうかもね・・・」
ほんの少し寂しそうな顔をした衛輔を見て、あたたかい気持ちになった。
「衛輔はさー、俺のことどう思ってんのー?」
店を出て二人、お洒落な街路を歩いているときに、ふと聞いてみる。
「今聞くかよ・・・!」
頬を赤く染めて、上を睨んでくるのだけれども。可愛いだけなのに。何度も思ったことだけどおそらく、本人は気づいていない。
「うん、今。」
「・・・手ぇ繋いで歩くのも恥ずかしいのに、」
はぁ、と軽く息をつくと店の前で立ち止まって俺のほうを向いた。
「一回しか、言わないかんなっ、」
「うん、」
長いマフラーのせいで隠れた口元が、ちらりと見える。あぁ、キスもだいぶしてないな。それ以上の、行為だって。しばらくしてない。今すぐに触れたい衝動を抑えて、言葉を待った。
「とおる、好きだよ、」
ああでも。
優しい優しいこの愛の言葉さえ聞けるなら。今くらいはそれ以上のことなんて望まなくたって。手を繋いで、好きだよって、笑いあえるならそれでいいかな。って。
言わせんなよッばか!そんな言葉も聞こえたけれど。
「俺も大好きだよ、もりすけ」
こうして今回も、俺たちは愛の言葉を紡ぎあう。
素直になれないお姫様
(俺の前だけは、ふわふわと優しくて素直なんだ)
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