一度手から離れていった |
鳴り響くサイレンの音。頭にはまだ車のブレーキの音がキィーっと高く残っていてなんともいえない気持ち悪さに頭を抱えたくなる。叫びたくなる。過ぎていくドップラー効果のサイレン音を聞こうなんて気にはなれず時速80キロもの自動車を必死に走って追い掛けた。人間とはなんて無力なんだろう。そんな哀しいことを考えながら。
気がつくとそこは白い天井。あまりのショックに俺は道端でぶっ倒れて足を折っていたそうだ。
「っそれより!アイツは・・・・!?」
取り乱して起き上がったのを医師に止められ看護士に無理矢理体を抑えられる。医師はうつむいて、
「集中治療室にいます・・・」
涙声で期待はせずに、と呟くと看護士たちの抑えつける力も若干弱くなった。
頭がまわらない。
考えられない。
ブレーキの音の後の記憶がない。
「・・・・---っ!!おいっ!?」
あぁ。
彼が叫んでいる。
また迷惑をかけているの?
駄目じゃないか。
「・・・・・・・」
そう思ったら静かになった。
「-----・・・」
彼が呼んでいる。
僕の名前を。優しく。儚く。
「ドクター!もう、もう、限界ですっ!!」
「あと2センチ、開いて!」
お医者さんたちが必死に作業している。もうかすれてみえない。もう、歪んで見えない。
「・・・愛してた・・・」
彼の声がまた、聞こえた。
愛してた、って。
君の声はとても柔らかかった。
優しかった。
「・・・あり、がとう、ぼく・・・・も・・・・・・」
君の声は優しかったから安心できた。
安心して眠れた。
「・・・くん、アリババくん!」
「わっ、アラジン?」
うたた寝してしまったようだ。夕日が沈みかけて海がきらきら輝いている。
何故だろう。凄く哀しい夢を見ていた気がする。目元にはうっすらと濡れたあともあったし。
「そろそろご飯だって!!行こう?」
「あ、よし、行くか!」
「うん!!」
アラジンがにっこりと笑う。何故だろう、この笑顔を俺は昔、生まれる何百年も前から探していた気がする。
一度手から離れていった
(探していたもの、)
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