普通とは、なんだろう。
それが未だに私には解らない。
それは幼い頃からだから、私にとっては普通なのか…。

でも、この想いは傍目からみたら普通じゃないんだろうと思う。

在りし日の、あの子の姿を思い浮かべては
ため息をつくばかりだ。

●在りし日のあなたへ。臆病な私が伝えたいこと。


禰豆子。という子は美しい。
気立てが良く、家族思い。自分の事は二の次で、いつも他人を思いやる。
私はそんな禰豆子が大好きだ。
その大好きは、友達として。では無い…。

これは異常なことなんだと思う。

だって私は女であり、彼女も女だからだ。

それに気づいたのはいつの頃だったろうか。
すごく最近で、すごく昔の事のように思える。
私の恋愛対象は、女性だった。

自分が男だったら…。と、自分の性別が憎たらしく思えたことが何度だってある。
だって、男だったらきっと…こんな悩まずとも禰豆子の傍に居られたのだから。

禰豆子と彼女の家族が血だらけで倒れていたあの日を思い出した。
あと少し、私が早くきていればこうはならなかったのでは?と何度も後悔した。
その後ですぐに彼女の兄である炭治郎が帰ってきて、彼もまた絶望に打ちひしがれた。

辛うじて生きていた禰豆子を抱え二人して山をおりる。でも、彼女はもはや人間ではなくなっていた。


鬼…。禰豆子はその日鬼になった。



「ねぇ、禰豆子」

私はそんな日を思い出しながら、私の膝に頭を預けて手足をパタパタさせる…まるで幼児のような禰豆子に視線を向けた。

その口には、竹の口枷。

禰豆子が人を噛まないよう、あの雪山で出会った冨岡さんがつけてくれたものだものだ。

気立ての良かった禰豆子は、鬼になってから幼児退行したのか…その面影はない。
私の事を、覚えているのかすらも分からない。

「ねぇ、禰豆子」

私はもう一度禰豆子に呼びかけた。
禰豆子は、う。と声を上げ、その桃色の瞳で私を見上げていた。

その頬をするりと撫でる。


「…あなたのこと、大好きよ」

そう言った私の瞳から涙が溢れ出した。
私は臆病だから、きっと人間に戻った禰豆子に、この想いを吐き出すことなんて出来ないだろう。

怖かった。それを告げたら、禰豆子が嫌な思いをするんじゃないか。
禰豆子が傷つくんじゃないか…。

そして私は卑怯だ。


こうして鬼になり、知性を無くした禰豆子にしか想いを吐き出すことが出来ないのだから…。


「ごめん、ごめんね。禰豆子。私は…」

ポロポロと涙が落ちる。それは膝の上の禰豆子に降り注いだ。
すっと禰豆子腕が伸びてきて、私の頬を撫でてくる。
ハッとして彼女を見遣れば、うーっと声を上げながら微笑んでいたのだ。


「すまないな、なまえ!禰豆子の面倒を見させてしまって…って!?泣いているのか!?」

そんな時部屋に入ってきたのは炭治郎だった。
ポロポロ泣く私を見て、驚愕した表情を浮かべる彼に、私は涙をゴシゴシ拭いて
大丈夫。とだけ告げる。

「本当に、大丈夫なのか?何か辛いことがあったなら、俺が聞くぞ?」

炭治郎は優しい。そんな兄の姿を見て育った禰豆子はもっと優しい。
私を心配する炭治郎に、あなたの妹が好きなの…頂戴よ。なんて言ったらどんな顔をするのかな。

私はそんな事を思って、眉を下げた。

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