小説 | ナノ


基本的に、国家軍部隊において、世間一般的なイベント事は一切関係ない。
それは、年末の一大行事、クリスマスも例外ではなく。
軍の中でも特殊部隊、特にオレ達幹部にとっては、そんなものにうつつをぬかしている場合ではない。
…とは、言ってもね。
恋人がいる身としては、やっぱり見逃しがたいイベントなわけで…

問題は、その恋人が同じ軍幹部所属、加えてクソ真面目の仕事の鬼だということだ。

さぁて、どうしたもんかね。




『イブの条件』





11月中旬。
オレは提出用の来月分勤務希望表を眺めながら、頭を抱える。

「ラーオくん!どーしたの?そんなに難しいカオしちゃって〜!」

大声で駆け寄ってくる我が二番隊の副長、フィアンマに、オレはひらひらと手を振った。

「フィンさ〜、来月のシフト出した?」
「出したよぉ!来月は大忙しだよ〜写真集発売記念の握手会でしょ、それにクリスマスライブと年越しライブもあるし〜」

軍人としての傍ら、国民的スーパーアイドルとして君臨する彼女の来月の予定は、聞くまでもなかった。

「うげっ、ちょっと待った!てことは、24日は…」
「あーごめんね〜!毎年のことだから…あ!ちゃんと元帥には許可貰ってるよ!軍のホールでも歌うし!」

フィアンマのアイドル活動は、軍や政府にも公式に認められ、その上大々的な後押しを受けている。
隊長がちょっと休みたいというだけの一存で替わってもらえるようなレベルの仕事ではないのだ。

「あれれ?もしかして、ラオくんもクリスマスに予定あるの?」
「フィンちゃん?オレとイーリスくんのこと知ってるよね?」
「でもでも、ラオくんがお休み取ってもあのイーくんがお休み取るとは、フィン到底思えないなぁ〜」

フィアンマの言う通りだった。
あの仕事真面目のイーリスが、ただでさえみんな休みたがって仕事の停滞するクリスマスにわざわざ休暇を取るなんて、悲しきかな、オレにも全く想像できない。
オレが頭を抱える理由は、まさにこれ。

「そうでしょ〜?だから悩んでるんだよね〜」
「お休みしなくても、定時に上がれば夜はデートできるんじゃないかな?」
「あの残業が生き甲斐みたいな子が17時でタイムカード切ってくれるかな〜」
「も〜!弱気になっちゃダメだよぉ!そこはラオくんがガツっと行かなきゃ!」

考えれば考えるほど不可能という言葉が頭の中にこだまする。
年末は普段通りの修練に加え、事務的な作業も増えるため、全体の仕事量は否応なしに倍増し、イーリスのピリピリ度もそれに比例していく。
さらに一番隊は特殊部隊の代表なので、実は他の隊より仕事量も遥かに多い。
そのため、年末の一番隊副長には出くわしたくないという隊員もいるほどだ。
そんな子に恋をして、恋人に選んでしまった自分も自分なのだが。

「ガツっとかぁ…そだね、ちょっと聞いてみよっかな」