小説 | ナノ

生まれついてのゴーストタイプだったからか、俺は物心つく前から、“あの世”の存在を知っていた。


〜第一章〜
 

俺が生まれたのは、山奥にある小さな村。
母親は、妹を産んですぐに死んだ。父親にいたっては、顔どころか名前さえも知らない。
唯一わかるのは、母様が口々に言っていた、『お父様は立派な霊媒師だった』ということくらいだ。
やっと歩き始めたばかりの、小さな妹の世話をしながら、俺はヨノワールのじーさんのもとで、修行をさせてもらっていた。
見たこともねぇ父親と同じ道を、俺はいつの間にか選んでいたんだ。

「なぁじーさん。これはどういう意味なんだ?」

この日の課題は、長い長い巻物の読解。
山ほどの文献や資料を片手に、俺は机に向かって悪戦苦闘していた。

「聞いてどうする。それを読み解くのが課題じゃろう」
「だってわかんねぇんだもん」
「口答えせんと、さっさと進めんかい!このたわけが!」
「いてっ!」

じーさんは昔から気難しくて、頑固で、ちょっとでも口答えしようものならばすぐにげんこつ…で済む時はまだマシな方、足蹴りが飛んでくることもある。
俺もよくこんなじーさんのもとにつく気になったよな。我ながら感心してしまう。

「…っちぇー、なんだよ、耄碌じじぃのくせに…」
「何か言ったかの?」
「いえ、なんでもありません」

俺はぶつぶつ不服を漏らしながら、再び筆を握った。

「…まったく…その程度の巻物、すぐに読めんでどうする。おぬし仮にもあの、」
「『世界的にも有名な霊媒師だったムウマージの息子』、だろ。聞き飽きたよそのセリフ」

何かにつけてそればっかりだ。父親って言ったって、どこの馬の骨かもわからない奴と比べられるなんて、正直不本意だ。俺は俺、そいつはそいつ、だろ。

「ふん。いっちょまえに生意気な口をききおってからに。まぁおぬしも、いずれムウマージに進化出来れば、多少は力がつくかもしれんのぅ。今はそのための過程段階じゃ。しっかり勉強せい」

じーさんの言うことは、いちいち引っかかる部分もあるが間違いは無い、全て真実だ。
今は勉強するしかない。そう思って、日々を送っていた。