小説 | ナノ


「風渦、テーブルの上の板チョコの山、あれ何?」




『ちょこらぶ』




2月13日、午後2時。
風渦(と煌伯)の家に遊びに来ていた炸羅は、ふとリビングのテーブルの上に山積みになっている板チョコを見つけ、たずねた。
風渦はぽかんと目を丸くし、首を傾げて聞き返す。

「何って、炸羅…もう明日だよ?」

炸羅はさらに首を傾げ、眉間にしわを寄せる。

「明日?明日って何かあった?」
「え、ちょ、炸羅本気でわかんないの?」

バレンタインだよ。

そう答える風渦の顔を見るなり、炸羅の視線はあさっての方向へ向けられる。
完全にバレンタインという存在を忘れていたのだろう炸羅に、風渦は恐る恐るたずねた。

「…もちろん、炸羅も作るよね?」
「オレ……その行事キライ…」

がっくり肩を落とし、体育座りを始める炸羅に、風渦はガタンと勢いよく立ち上がり、猛反発する。

「なんでー!?あーちゃん絶対楽しみにしてるよ!?俺だってせがまれたから仕方なしに作るだけだけどさ、一緒に作ろーよー!!俺だけあげるとかバカみたいじゃんかー!」

がくがくと身体を揺すってくる風渦に、炸羅は目を合わせられず苦笑した。
それは去年のバレンタイン。
どうせ作るなら、と気合いを入れすぎて作ったチョコレートに予想以上に感激され、あろうことか自分までおいしく頂かれるというとんでもない事態が起きたため、もう二度とヤツにチョコレートは贈るまいと心に決めたのだ、…などと、口が裂けても言えなかった。

「去年の、あーちゃんすっごい喜んでたじゃん」
「それがマズかったんだって…」
「え?味見させてもらったのすっごいおいしかったよ?」
「いや、そのマズいじゃなくて…」
「あーちゃん、ケーキ類が食べたいって言ってたよ」
「……」
「俺は炸羅ほど料理に自信ないから、チョコ溶かして固めるだけで我慢してもらうけど。あ、余ったら俺にもちょうだいね。炸羅の作るお菓子大好きなんだー」

勝手に話はチョコレートを作るという方向に進んでいる。
一度風渦のペースに飲まれたら、脱出はほぼ不可能だ。
炸羅は観念したように頭を下げ、満面の笑みを向けてくる親友に一言つぶやいた。

「…もーわかったよ、…はぁ」