小説 | ナノ

「却下だ」
「え〜?まだ何も言ってないよ?」

会議室前で見つけた恋人に笑顔で手を降っただけなのに、返ってきたその一言にオレの全戦闘能力を奪われた。
案の定、両耳の先から放たれる静電気が絶えず音を立て、纏う空気はまさに不機嫌そのもの。

「どうせ来月の予定でも訊ねに来たのだろう」
「あーうん、そうなんだけどね、」
「あいにく雑務が溜まっている。今年の仕事を来年に持ち越したくない。休んでいる暇など俺にはない」
「そう言わずにさ、24日の夜くらいは…」
「まさか、お前までクリスマス休暇を取るつもりか?ただでさえ人員不足になる時期だというのに、隊の幹部が休めるわけないだろう!」
「そこを!そこをなんとか!」
「あんた、自分が隊長だという自覚はいつになったら生まれるんだ!」

イーリスは肩で息をしながらしばらく考え込み、やがて大きな溜め息を一つ吐いた。

「…まぁ…その日の仕事をさっさと片付けてしまえば済むことか…」
「え?なに?」
「仕方ない、24日の夜だな。空けてやる」
「だから、そんなこと言わ…、え?えええええ???」

オレは一瞬自分の耳を疑って、イーリスに詰め寄った。

「え?なんて?今なんて言ったのイーリス、」
「寄るな暑苦しい。空けてやると言ったんだ、24日」
「まじ?え、ほんとに!?」
「チッ、しつこい奴だな。前言撤回するぞ」
「うそうそ!すっごい嬉しい!」

奇跡が起こってしまった。
夢でも見てるのかもしれない。

「その代わり」
「うん?」

イーリスは軽く咳払いをして、淡々と言葉を紡ぐ。

「今年中に、今年二番隊に課せられた仕事を隊長のあんたがすべて片付けろ。フィアンマに託すのはなしだ。それから、部屋の大掃除を必ず行え。バニラシェイクを先月の2倍おごること」
「え、最後のって」
「それと」

イーリスはオレの目をまっすぐ見据えて、表情を崩さずに続けた。

「残業を差し置くからには、一晩中とことん付き合ってもらう。いいな?ラオ」

いつの間にか完全に主導権を奪われていたけど、そんなことはどうでもよくなっていた。

恋人同士になって、初めてのクリスマス。

これは、ひょっとして、もしかすると…?

ちょっと期待しても、いいのかな。


「一つでも達成できなければ、俺は仕事をする」
「わかった!オレがんばるから!」

相変わらず厳しいなぁ。
ま、そんなところも大好きなんだけどね。
条件クリアのタイムリミットまであと一ヶ月。
残ってる仕事を数える気にはなれないけど、さぁて…

これは本気出すしか、ないよね。




END.