小説 | ナノ
少し霧掛かった満月の晩。
俺は今日の一仕事を終え、とある共同墓地の中央にある丘の上に腰掛けて、ぼんやり月を眺めていた。
月は淡く雲に覆われていて、満月と言えどその光は微弱なものだった。
辺り一面いまいちはっきりしない、もやもやな情景。
今の俺の心情をそのまま映しているようで…どっと疲労感が増した。

「…今晩は霊の数が多い…月の影響か…のう?憑壱」

ふと背後から聞こえてきた声に、俺は振り向かず返答してやった。

「…何だよじーさん。こんなとこまで降りて来たんかよ」

何もない空間から突然姿を現したのは、ヨノワールのじーさん…一応、俺の師匠だったりする。
全身マントで身を包み、フードを鼻の下まで深々と被っているから、顔はほとんど解らない。
嬉しくも何ともないが、じーさんの素顔を知っているのは、恐らく俺だけだろう。

「ふん。わしとて腹は減る。それにこの墓地をうろつく魂は、他と比べものにならんくらい旨いからの…差し詰め、おぬしもつまみに来たんじゃないのかぇ?」

じーさんに嘘は絶対通じねぇから、そーだよとだけ返してやった。