小説 | ナノ

うぇぇぇぇぇん

「!」
「どうやらお目覚めのようじゃの。憑壱、見に行ってやれ」

ふと響いた泣き声に、文献の頁をめくる手が止まる。
おとなしく眠ってると思ったのに。俺は伸びをして、隣りの部屋の襖を開けた。

「…レムー。どうした?」

布団の上で泣きじゃくっていた妹は、俺を見るなりたどたどしい足取りでしがみついてきた。

「にー、にぃ…」
「怖い夢でも見たか?兄様が食ってやろうか?」

嗚咽を繰り返し愚図る妹を抱き上げ背中を撫でてやりながら、俺はじーさんの許可をもらって、少し外に出ることにした。

 
茜色の空。ひんやりとそよぐ風が、酷使した頭を冷やしてくれる。
夏も、もう終わり。そろそろ庭が、あの花でいっぱいになる季節だ。
妹を腕に抱きながら川べりを歩き、遠くに沈む夕日を眺めた。

この世はとても鮮やかだ。
いずれ帰る、あの世界と違って。

「あー、うー、」

首にしがみつく妹の手は、まだこんなに小さい。
大きく伸びるのは影ばかりで、俺自身もまだ、こんなに小さい。
もっと強く、大きくなる。妹を守るために。
だから修行しなくちゃいけない。

「お腹空いたな、レム。そろそろ帰ろうか」


今のままじゃ、駄目なんだ。